第1章

2/27
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/27ページ
 <1>  険しい山岳地帯。  麓から吹き上がるような独特の風に晒されたその地に草木の類は少なく、薄茶色の土が露出している。  そんな不毛の地の頂上に、その都は存在していた。  都は垂直に交わる二本の大路と、それを起点とした小路と路地が升目の如く縦横断し、それに沿って家屋や店舗が立ち並ぶ。  荒れ果てた外界とは異なり、そこは整然とした街並みが保たれていた。  街の名はグリフォン・テイル。  宗教都市として名高く、この世で広く布教されている教団の総本山たる『大聖堂』が存在している唯一の地。  それ故、人々はこの街の事を『聖都』と呼ぶ。  そして、この聖都グリフォン・テイルは今、熱気に包まれていた。  熱気の正体は、人の群れ。  街中を埋め尽くさんとばかりに集いし群衆であった。  人の群れは、街の西端に聳える一際大きな、絢爛にして荘厳なる純白の建造物──大聖堂へと集っていた。  彼らが見つめているのは、その最上階にある無人の露台。ある者は興奮の余りに騒ぎだし、またある者は固唾を呑みながらも瞬きさえ忘れ、片時も視線を放そうとはせぬ。  人々は一様に黙する事を知らず、騒然と時を待っていた。  ──正午。太陽が空の真南へと差し掛かった時、聖堂の中より、一人の女が姿を現すと、取り囲む群衆が割れんばかりの歓声をあげた。  群衆の三割は純白、或いは白と青を基調とした衣を身に纏いし者。これらを纏うは、巡礼者や神官、高僧といった聖職に就きし敬虔なる神の信徒。  残りのうち、三割は銀色に輝く甲冑を身に纏いし戦士たち。彼らはみな一様に、胴鎧の胸部に揃いの紋様が刻まれていた。その様は、馬上にて戦場を駆け抜ける騎兵の如き衣装。  事実、彼らはここより遥か東に位置する王都より派遣された騎士隊の者たちであった。  そして、残りはこの街に居を構える一般の住民。聖都の民に相応しく、彼らもまた敬虔な神の信徒。清貧を尊び、人を敬い、家族を愛する善良なる民。  そんな彼らが皆、熱狂し、声を上げ、無人の露台へと現れた女の登場を歓迎した。  赤と白を基調とした聖衣を纏い、長い白髪を靡かせた女を。  現れたのは一人の老女であった。  その衣を身に纏うことを許されているのは、この国では唯一人。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!