第1章

5/27

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/27ページ
「御紹介致します。あの『双翼の聖騎士』レヴィンとエリスの直系の子孫にして、この度、かつての祖父母と同じく『聖騎士』に任じられました──アリシア様です」  三度起こる拍手と歓声。  聴衆が歓喜に沸く中、聖堂の中より、露台へと現れたのは、一人の若き女。細かい装飾が施された衣服の上に、聖印が彫刻された鎧を纏っていた。  少し癖を残した銀色に輝く髪は、肩の辺りまで伸ばされており、その毛先は、同じく銀色に輝く鎧の肩当てに軽く触れていた。  眉と目の端が少し上がり気味なせいか、一見すると厳しい性格なのではないかという印象を受ける。しかし、その碧眼の奥に宿るは真摯なる誠実さと、獅子の如き気高さを併せ持った光。武人として必須たる強さの象徴に他ならぬ。それを含め、整った顔立ちはまさに強さと美しさを両立させた女傑の証。  年齢は二十を少し超えたくらいだろうか。その煌びやかな装いに劣らぬほどの気品と、溌剌とした若さ、そして女性として溢れんばかりの魅力を漂わせていた。  若き女聖騎士が口を開く。 「只今、セティ司教よりご紹介に与り、この度は祖父母と同じ、名誉ある『聖騎士』の位を拝命致しましたアリシア・クラルラットと申します。本日は私の為に、このような盛大な会を設けて頂き、感謝の言葉もございません」  そう言い、一礼する。  その凛とした声と態度は、隣に控える老司教に負けぬ程に堂々たるもの。万にも及ぶ聴衆を前にしても緊張した素振りを見せず、むしろ穏静とした様は、この盛大なる披露目会の主役に相応しき風格を備えていた。  新たな聖騎士は頭を上げ、続けた。 「私が生を受けたのは、既にこの街の復興が終えた後のこと。かつての戦の激しさと熾烈さ、そして、戦後の荒廃を両親や祖父母より聞くにつれ、事を成し遂げた先人らの偉業に感服し、尊敬の念を新たにした程です。我々、若人が成すべき事は、これら過去の悲劇を再び繰り返さぬよう、その教訓を後世へと語り継ぎ、そして今の安寧が揺るぐ事のなきよう力を尽くす事に他なりません。今日、私が祖父母以来とされている『聖騎士』の称号を託されたのは、その象徴的な役目を天より任されたものと受け止めております」  静まり返った聖なる都に、朗々とした声が再び残響する。  先刻の老司教の発したそれとは異なり、その声には生命力と活力に満ち溢れていた。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加