第1章

6/27

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/27ページ
「しかし、今の我が国は非常に不安定な情勢にあります。かつての『十年政権』の末、王家と議会に権力が返還されましたが、その実態は幼い王子を担ぎあげた一部の有力議員らによる傀儡政治の体を成していると言うこと。そして『十年政権』の名残ゆえ、一部の地域ではその地方議会よりも、その地域を管轄する騎士隊の意見を尊重するといった歪な体制が習慣づいていること。この不安定な情勢は、五十年前の戦の影響が、姿を変えて残存している──そう言っても過言ではないのです」  本来、この国は武を象徴する我々騎士団と、教を象徴する教団勢力、そして、政を象徴する議会──この三権が分立し、相互の力を均衡させ、監視をしあう事によって、権力の偏頗を防ぐといった構造をとっている。 『十年政権』は、当時の騎士団の賢明な判断により、人々に豊かな生活を齎したという成果を残している。  そして現在、現王家や政権が、民衆にとって必ずしも満足のいく成果を上げていないがゆえ、再び騎士団による政権を望む声が大きい。  しかし『十年政権』とは、当時の議会が王家の後継者争いに乗じて紛糾し、本来の役目を果たさぬばかりか、民衆に直接的な害を与えてしまったが故の緊急的な処置であり、平時の今、それを望んでも叶うものではない。  万一、それが叶ったとしても──当時政権を担っていた騎士団の者達は、『双翼の聖騎士』レヴィンとエリスをはじめとし、半数以上が既に逝去、或いは引退をしており、かつてのような善政が施されるとは限らぬ。  聖騎士の発言は、そういった民意を憂慮し、牽制する意味が込められていた。 「そう、我々の世代に課せられた責任は騎士団、議会共々が各々に内在する問題を解決させ、一日も早く正常化を図る事に他なりません。過去の悪夢の呪縛から、この国を解き放つためには決して避けて通れぬものであります。その為には騎士団として貴族らの傀儡と化している王家を助け、為政者としての自立を促さねばなりません」  そこまで言うと、アリシアは昂った思いを落ちつかせるかのように、両目を閉じ、口を閉ざす。  一呼吸の間を置いた後、最後に一言、付け加えた。 「この場で皆様にお誓い申し上げます。私──アリシア・クラルラットは新たな聖騎士として、この国を過去の悪夢の呪縛から解き放つ為の一助となる為、この身を、生涯を捧げる事を!」  宣誓し、アリシアは腰より抜いた剣を天に翳す。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加