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刃が真昼の陽光に反し、眩き銀色の輝きを放つや、場内は四度、割れんばかりの拍手と歓声によって包まれた。
<2>
威厳に満ちた表情を浮かべた神像と、穏やかな表情を浮かべた天使の像が静かに見下ろしている。
大聖堂の敷地内に併設されている聖職者の居住棟。一番奥にある部屋に置かれた寝台の上に横たわり、司教セティは、これらの顔をぼんやりと眺めていた。
祭りの喧騒が外界を支配している中、この一室は、張り詰めたかのような沈黙に満ちていた。
先刻、露台の上で聴衆に見せた覇気は何処にもなく、威厳を更に高める装飾の役目を果たしていた顔皺も、今となっては老いの象徴と化していた。
死の床に横たわる聖者は、傍らで自分の手を握り、片時も離そうとはせぬ女に微笑みかけた。
新たなる聖騎士──アリシアに向けて。
「主役たる貴女が表に出ずにどうするのです? 私の事など放っておいて、貴女の門出を祝福する人達に声をかけてあげて下さい」
アリシアは無言で首を横に振る。視線を落とし、髪に隠れてはいたが、その瞳には涙が溜まっていた。
「セティ様は王都で隠居なさっていた祖父母に代わり、私の成長を暖かく見守って頂きました。その温情、愛情を一心に注いで下さった貴女は私にとって第二の祖母も同然。そのような方が不調と知った以上、外で遊び呆ける訳にはいきません」
──自分の命が、もう長くはない事をアリシアも悟っているのだろう。聖騎士は頑としてその場を動こうとはしなかった。
このやりとりを何度繰り返しただろうか。司教セティは口元を歪め、苦笑めいた表情を浮かべる。
「その頑固なところ──あの二人の若かりし頃に、本当にそっくりですね」
「祖父上と祖母上に──ですか?」
「ええ」司教は喉の奥で笑う。
「聖騎士という人物は往々にして、そのような素養の持ち主なのかも知れませんね。貴女を聖騎士に推挙した私が言うのもなんですが」
「……祖父母上には幼少の頃、王都で数度ほどお会いしただけですから」
「そうでしたね。ごめんなさい」
そう言い、微かな嫉妬の感情を浮かべる聖騎士に笑顔で謝罪する。
「ですが、私は長く生きすぎました。先立たれた仲間達を寂しがらせるのも良くありません」
「そんな……」
反射的に、アリシアは顔をあげる。
彼女は、その大きな瞳から大粒の涙を流していた。
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