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今、その彼女は自らの選択の末に待ち受ける運命に不安を感じ、怯え、震えている事だろう。
ウェルトは両目を閉じる。
自分の役目は、そんな彼女に今後襲いかかるであろう脅威より守り、そして、それを取り除く事。
──明日、アリシアとセリアは、とある錬金術師と面会を行う。
贖罪の道を歩むセリアは無論の事、それを守る道を選んだアリシアにとっても、明日という日は極めて密度の濃い一日となることだろう。
ウェルトは如何にすれば、その一日を無事に、そして有意義に過ごさせることが出来るのか──ただ、それだけを考えていた。
故郷を追われた三人の若者の旅は、まだ始まったばかりであった。
誰ひとりとして、中断も、脱落も許されぬ。
それが、凄惨なる運命の幕開けであったとしても──
<3>
翌日。
ウェルト、アリシア、セリアの三人の姿はグリフォン・アイの街にある貧民街の奥にある『区画』の中にあった。
『区画』を仕切る壁や、街のいたるところに聳える高き建造物に遮蔽され、昼間であれども陽光が差し込む事は極めて稀であり、そこはさながら宵の口のよう。
道もまた複雑に入り込んでおり、ランプを手にして先導する案内役──グリフォン・アイ騎士隊の男がいなければ、たちまちのうちに迷っていたのかもしれない。
アリシアは、ふと周囲を見遣る。
先導役が持つランプに翳され、通りに佇む者や行き交う者の姿の詳細を照らし出されていた。
誰もがみな、その顔には一切の覇気などなく、ただ、黙してその場に座り込むか、宛てもなく辺りを彷徨い歩く。
定職はおろか、その日の食事にも満足に得られぬのだろう。
──しかし、奇妙だ。
その時、アリシアは疑問を抱いた。
今、通りを歩いているのは騎士と僧。
剣や甲冑、盾。そしてセリアの持つ戦鎚、そして、各々が懐に持っている銭袋──
その装いたるや、まさに金目の物の塊である。にも関わらず、『区画』内を歩いて小一時間。誰一人として、そんな自分たちに干渉するものがいなかったのである。
物取りや物乞いの類ですら。
「──我々が最低限の仕事を斡旋しているのです。ですから、彼らも悪事に手を染めずに、なんとか持ち堪えているのです」
先導する騎士がアリシアの疑問を察し、小さな声で答えた。
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