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騎士とて武人である。血気盛んな者達が多く、このような迫害が横行する現状に対し、怒りや嘆きなどの感情が先行するのが自然。
しかし、眼前の彼はどうか?
『迫害をする側』を責めるような事をせぬどころか、同情心までをも併せ持つほどに理知的に振舞う様は、たとえ高潔な精神を持つ騎士であると言えども稀な反応である。
「貴方──まさか?」
同じ印象をウェルトも抱いたのだろうか。同行する騎士に問うた。
それは、眼前の人物に対する、本当の素性を質すため──つまり、その騎士の装いは擬態。その鎧姿の下にこそ彼の本質を隠してある。
そう察したが故の問いであった。
この突然の質問に、先導する騎士は一瞬、その顔に驚きの色を浮かべた。まるで心の急所を触れられたかの如く、その肉体は戦慄し、彼はその場に立ち止まった。
数瞬の後、騎士姿の男がその顔に浮かべたのは、笑みだった。
まるで、何かを諦めたかのような、そんな笑みであった。
「──流石は聖騎士アリシア様。そして聖騎士様を支える従騎士ウェルト殿」
そして、頬を掻く。
「騙すつもりはありませんでした。ですが、流石に貴方達をこの入り組んだ暗い道に案内するのは、たとえ土地勘のある騎士隊の方々にも少し荷が重いでしょうし。……かと言って、私も何らかの変装を施さねば表通りに出られぬ身でありますからね」
「随分と手の込んだ偽装をしたものだな。まさか騎士隊の詰所で『区画』への案内を依頼した人間が、まさか、今から訪問する相手であったとは」
「我々『区画』内の住民は外の者達と徒に衝突を起こさぬよう秘密裏にではありますが、騎士隊の方々に全面的な協力をして下さっております。聖騎士様らが私に会いたがっていることを、わざわざ伝えていただくだけではなく、その為に、こうして変装の為の武装を用意して頂くなど、段取りをつけて頂いた事も、その一環」
「──なるほど。では貴方が?」
アリシアに促されると、男はこれ以上の言い訳をやめ、いまだこの事態を飲み込めぬセリアに向かい一礼する。
そして、言った。
「お初にお目にかかります。セリア殿。──私の名はルーセル。『錬金術師』ルーセルと申します」
<4>
『錬金術師』ルーセルの家は『区画』内の最奥にあった。
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