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そこは『区画』内の子供たちに読み書きや、簡単な計算を教えている私塾でもあり、子供たちやその親らの唯一の交流の場──集会所としての役割を兼ねているという。
しかし今日、生徒たる子供たちの姿はなく、教室と思しき広い室内は静まり返っていた。
室内の中央の席、古ぼけた木製の椅子にはセリアが座り、彼女より卓を一つ挟んだ向かい側にある椅子に存在しているのは、部屋の主であるルーセルの姿。
ウェルトとアリシアは、少し離れた席に座し、そんな二人の姿をじっと見届けていた。
沈黙は長く、そして重い。
その重さこそが、セリアとルーセル、各々が背に負いしものの重さ。それを互いに知るが故、二人は相手の立場を尊重し、慎重に話を切り出す時機を見計らっているかのようにも見えた。
だからこそ、ウェルトもアリシアも、誰かを促すような事や、冗談をもって場を和ませるような事もせず、ただ見守る事に徹した。
「どうして貴方は」その時、セリアの口が動いた。「迫害されるとわかっているにも関わらず、錬金術の道を志したのですか?」
「世の発展に必要な技術であると信じているがためです」
質問者に向かい、ルーセルは真摯な眼差しをもって応じた。
「皆様も御存じでしょう。錬金術が昔日の日々よりどれほど益を世にもたらしたのか。そして、それを行使する錬金術師が道を誤り、この世に如何に大きな傷跡を残したのかを。錬金術が有する力の大きさは、これらの歴史が証明していると言えるでしょう」
ウェルトは、その言葉に得心し、小さく頷いた。
事実、錬金術がこの世にもたらした益は大きい。
蒸留技術の発達による酒の精製技術や、液体内の成分の抽出を可能とした事によって、様々な化学的な知識やそれを基とした、新たな技術の開発に最も貢献したと言えよう。
また、これらで培われた知識は、今も尚、主に病の研究や薬学の分野に大きく生かされ、その発展に寄与している。
錬金術とは、化学的手段を用いて卑金属から貴金属に精錬することのみではなく、人間を含めた生物の構造にも特化した技術でもあるのだ。
しかし、その技術は五十年前の戦の折、敵であるソレイア──セリアの祖母の下、大きな変革と進化を遂げた。
事もあろうか、最も悪い形で。
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