第1章

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 ある時は、少女の脳を弄り、自我を奪っては、それを周辺地域の豪族らに性の奴隷として売り捌くことによって、大きな収入源とし、またある時は、人間や魔物の脳に埋め込み、その精神を操作しては、死すら恐れぬ兵を作り出す事の出来る技術を開発し、軍事力を急速に強化させていったのだ。  質問者であるセリアの顔を見据え、真剣な眼差しで語る錬金術師が言い示しているのは、この錬金術の歴史──その真実。  しかし、それでも錬金術は世の発展に必要な学問であるという切なる訴えでもあった。  それを聞いたセリアは、一度、二度と頷いて聞いた後、更に問いかけた。 「かつての錬金術師は、その豊富な知識や知恵、技術の恩恵に与らんとする者達──名だたる貴族や豪族らによって雇われ、何不自由なく暮らせたと言われておりました。そんな錬金術師たちが、あの戦の折、大半が敵であるソレイア側につき、そして敗れ、凋落していったと聞きます。どうして、彼らがソレイア側についたのでしょうか? そして、その理由をルーセル様はどのように考えておられますか?」 「それは簡単です」錬金術師は間髪いれずに答えた。 「当時の錬金術師には、『自由』しかなかったのです」  意味深長な言い回しであった。  その言葉に、セリアのみならず傍観に徹していた二人の騎士も興味に駆られ、その視線を壮年の錬金術師へと向ける。  全視線が集中した事を察したルーセルは、新たに加わった視線の主たるアリシアやウェルトも顔を一瞥し、そして言った。 「錬金術のみならず、様々な分野において保障されている自由とは、本来、一定の制限の範囲内でのみ適用されるべきもの。ですが、当時の錬金術においては、その自由の範囲を決める『規制』やそれを遵守する『義務』の概念が一切なかったのです。そして権力者の庇護下に置かれていたが故、たとえ人道に反する実験を行ったとしても、他人がそれを咎める事は困難であり、万一、それが白日のもとに晒されたとしてもその罪は揉み消され、不問とされる事が殆どであったといいます。そういった環境に慣れ続けた結果、本来、自由というものに付随するはずである規制や義務の必要性を忘れ、常人なら備わっているであろう能力を失っていきました」 「能力──とは?」  来訪者の声が同調する。  錬金術師は一度小さく頷き、質問者たる三人の顔を見回した。
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