第1章

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 <1>  大陸の東側には、大きな河が流れている。  流域には王都をはじめとした東方の主要都市が多く存在しており、古くは農耕に必要な貴重な水源として、そして現在は多くの物品を流通させる為の重要な水路として人々に様々な恩恵を与えていた。  湿潤な気候をもつ環境の影響により、大河は一度たりとも涸れる事なく、時代に求めに応じて柔軟に姿と役割を変え、地域の発展に大きく寄与してきた。  大河より派生した支流の一つ。その川沿いの僻地に、その街は存在していた。  その閑静な田舎町の名はグリフォン・アイ。  王都の遥か南方に位置するそこは、川沿いに王都へと向かう旅人達にとっては格好の中継点。故に古来より宿場街として栄え、この時代まで緩やかな発展を遂げていた。  そして、この田舎町の事を人はこう称する。 『地獄から天国へ変じた街』。  グリフォン・アイは、大河の支流をはじめとし、深い森林や山岳などといった多くの豊かな自然に囲まれている。だが、その多くは未開発の地であり、それゆえに街は時折、そこに隠れ住まう多くの魔物達による襲撃を受け続けていた。  更に人々に多くの恩恵をもたらしている河川も自然の気紛れ如何によって、人間達に水害という牙を剥ける事も多々。  街の人口は、このような災害のたびに年々激しく上下し、その様は安定という言葉を知らぬかのよう。  そんなグリフォン・アイの街に変化が生じたのは五十年前。  ──とある悲劇をきっかけに、王都より派遣される騎士隊の規模が大きく見直され、魔物に対する防衛力が拡充。更には国からの潤沢なる資金が注入された事によって、長年悩まされ続けてきた治水面においても大きな改革が成された。  結果、グリフォン・アイを守衛する騎士隊の努力により、魔物の襲来も水害の被害も激減し、治安は大幅の改善が成された。  その水準は東方の主要都市のうちでも屈指の高さと言われるようになるほど。  この評価は、五十年経った今でも然程の変わりは見せぬ。  そして現在、この平和な街を管轄しているのは一人の老領主。  平和で閑静な田舎町の管理は楽な事この上なき仕事であり、年老い、晩年を迎えた貴人の有終を飾るに誂え向きなものであると言えよう。  その老いた領主は今、自らの館に客人を招き入れていた。
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