第1章

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 館内にある小さな会議室。円卓を挟み、下座の席に座する使者より提出された書簡を読み終えた老領主は天を仰いだ。 「王家からの使者の来訪であるにも関わらず『歓迎の式典は無用』という貴方の言葉に、私は当初、奇妙さを覚えていたのですが──なるほど。このような要件であるのならば、私も納得がいくというもの」 「──格別の御配慮、感謝いたします」  そう言い、静かに頭を下げる男を値踏む。  王家直筆の書簡を携える事ができるほどの人物。無論、只者ではない。恐らく王家所縁の者、或いはそれ相当の信用を勝ち得た貴族家の人物であるのは間違いないだろう。  そう考えた翁は男が持参した国王直筆の書簡に再び視線を向ける。  書簡の内容とは、このグリフォン・アイの街の守衛の為に駐留している騎士隊の規模を半減させよという命令であった。  そして、驚くべきはその理由。  それは周辺地域の住民らの度重なる非難の声──規模として然程大きくないこの田舎街に、小さな都市にも匹敵するほどの騎士や兵士を駐留させているのは不公平であるとして、見直しを強く要求されているとの事。  王都議会はその声を受け、近年のグリフォン・アイにおける魔物の被害状況から、規模の縮小が妥当であると判断を下したという。  街の主たる翁は、その愚かな決定に強い憤りを覚えていた。  近年の被害が少ないのは、この街が騎士団との協力のもと、魔物に対する防衛力の強化に努め続けてきた結果に過ぎず、駐留する騎士隊の削減する事は即ち、魔物の被害を食い止めていた直接的原因を取り除く事と同義。  この愚策と言うべき決定に領主は呆れ返り、まるで神に縋るかのような視線を、天井へと向けた。 「所詮は民衆の負担を体感した事のない、そして自らの保身しか考えぬ者達が下した決定と言わざるを得ぬ。この愚策によって穴の開いてしまった防衛力を補うための効果的な対策があっての決定なのであろうな?」 「──勘違い召されるな。今回の処置は言わば軍備の正常化。過去に騎士団が施した常軌を逸した優遇策を破棄し、それ以前の水準に戻すに過ぎぬ。貴殿は、その点を徹底して民に説明すれば良い」 「ふざけるな!」  領主の翁が一喝する。
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