第1章

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「五十年前に施された守衛の強化は十分に効果があったと記憶しておる。街の規模を基準とするのではなく、周辺に存在する魔物の勢力に応じた武力の配備をと方針転換した結果、民が安心して暮らす街を作る事が出来たのだ。その実りあった政策を否定し、逆行するかの如き決定には、たとえ勅命であろうとも、安易に従う訳にはいかぬ!」  使者の男は、怒り猛る老人に向かい、冷淡な視線を投げかける。 「しかし、その長すぎる平和の日々は民衆に過度な余裕を与え、堕落させたとも言えよう。安全が当たり前のものとなると、民は、それを支える国家に対する感謝や忠誠心など次第に薄らいでいくもの。これでは我々とて、何のために彼らを守っているのかわからぬ」 「そのような曖昧な理由だけで、我々が納得すると思っておいでか!」 「グリフォン・アイに対する他地域の者達の批判が強いという動かぬ事実が存在している。──では問おう。貴殿ならば、その声に対し、如何様に対応すると言うのか?」 「私ならば」領主の翁は即答する。 「過去の歴史を説明し、理解を求めるがな」 「それでは民衆は納得するまい」  使者の男は、すかさず反論する。 「彼らの願いは、このグリフォン・アイの街にへばりついている『優遇』という厚き皮を一刻も早くはぎ取る事のみであるのだからな」 「そのような卑しき被害妄想で、我が街の民を危険に晒せというのか! そんな愚か者がいるのならば、今すぐ私の前に連れてこい! 徹底的に論詰してくれるわ!」  怒声が室内に響き渡る。しかし、使者の男はその怒りを冷静な表情をもって受け止め、しばしの間、黙した。  そして、一度小さな溜息をつく。 「西の都市グリフォン・シン──そこで一部の民が暴動を起こした。この街に施された厚遇に対する不満が爆発してな」 「──なんだと!」 「ここから以西の集落に対する魔物の被害規模が、この数十年の間、増加の一途を辿っている事から、その原因はグリフォン・アイが軍備を強化した事により、魔物の標的より外された事にあると、そしてその標的が西に移ったものと考えるのが自然。連中はそれを何らかの経緯で知ったのだろうな」 「ならば、グリフォン・シンの者達も、その現状を陛下へと訴え出ればよいだけの話ではないか! 魔物より受けた被害を我々の所為にするなど、筋違いも甚だしい!」
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