第1章

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 無慈悲な私刑は執拗の極みであった。それは非難の対象であった者達の死後、その矛先は、関係者や子孫にも容赦なく向けられる事となるほど。  発端が彼らの祖先が犯した罪であるが故、非難することが即ち正義と信じて疑わぬ攻撃者には、加減や手心という概念など持ち合わせておらず、こうして人々の心を巣食った『正義』は、日を追うごとに限りなく歪み、肥大していった。  無秩序に、そして無責任に──  セリアが聖騎士アリシアと行動を共にして二ヶ月。  旅路の中、立ち寄った集落や街の至るところで、その『無責任な正義』を象徴する出来事を嫌というほどに見せ付けられていた。  殆どの街の貧民街。その最奥に『区画』と呼ばれる大きな壁によって隔たれた一角が存在している。  昼間も陽の光すら差し込まぬ内部には、被差別階級の者達が隔離されており、そこに住まう者の惨めな暮らしを垣間見る事が出来た。  そして、為政者も隔離をした理由に関しては「街の者同士が不必要な争いを起こさぬため」と説明するのが精々。最も根幹の問題である不当な迫害に対して言及する者は皆無。  だが、それも元を辿れば、自分の祖母の手によって引き起こされた戦による人心の腐敗に起因しているのだ。  末裔であるセリアにとって、この事実は耐えられる話ではなかった。心が張り裂けそうなほどの痛みの中、尼僧は堪らず涙を流す。  しかし、絶望はしてはいなかった。  彼女は近日、ある人物と会う事となっていたからである。  ──錬金術師。  かつてソレイアに囲われ、その悪事に加担し、戦後、罰に処され、民衆からの執拗な非難や迫害を受けた者達である。  しかし、彼らは酷烈な迫害、冷徹な世論に真正面から向き合い、五十年経った今も、世代を超えて生き残り続けていた。  その様は、大罪人を祖母に持つ彼女に重なる点が多く、その生き様より学ぶ事は多いはずである。  セリアは、このグリフォン・アイの街に駐留する騎士隊の計らいにて、『区画』内にて私塾を開いている錬金術師に話を聞く約束を取り付けていたのである。  彼女は期待に胸を膨らませていた。  恐らく──いや、間違いなく、その人物との対話は、おのれの人生を照らしだす指標の役割を果たしてくれるはず。  そう、心より信じていた。 「セティ様。どうかこの私に、幸ある道をお示し下さい──」
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