第1章

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 馬鹿げている──そう言わんがばかりに、強硬派の一人が言い捨てた。 「無責任な発言に対する担保としてな」  だが、穏健派の者達は一切臆さぬ。 「当然、素人に前線で戦ってもらおうなどという魂胆は毛頭ない。ただ、後方からの支援、騎士や兵士の身辺の世話という名目で現場に立ち会わせ、現実を見せる事は有意義なはず。戦とは決して夢物語や伝承伝記の中にのみに登場する絵空事ではない。おのれの生活圏内と同じ現実──地続きである事。そして、これは民意という名の下、言わば自分達の声に応じて起こったという事を理解させねばならぬ」  老人は続けた。 「故に問いかけるといい──おのれの発した強き言葉に自らが命を賭して従う覚悟があるのかを。この国の未来を担う若者たちが安全圏に身を置いて我儘をのたまうだけの愚劣な存在なのか? 或いは、自らが英雄となって、未来を切り開く事の出来る勇者たちなのか? 確かめてみようではないか。果たして如何程の者達が、その手に剣を、槍を持って戦線に参ずる覚悟を秘めし者達がいるのかをな」  穏健派の領袖は最後にこう付け加えた。  その程度の覚悟すらない臆病者如きの口より、どうして戦というものを語られる資格などあろうか、と。  そして、そんな民の上に立つ貴殿らが、どうして戦というものを始められようかと。  この声に応じ、穏健派の老貴族たちが口々に持論を展開する。 「これより行われる戦は、かつてのような勅命によるものではない。即ち、誰かに全責任を負わせるという逃げ道すら許されぬ、言わば西方の民による政治的観念によるものなのだから。それを基に戦に賛同するというのならば、その者が如何なる出自であろうが責は平等に背負うが筋」 「武力、金、そして戦後の処理にかかる、ありとあらゆる労力を厭わぬ覚悟なくば、国の平定など不可能なばかりか、その前の戦にすら勝てるかどうかも怪しいもの。それが出来ぬのならば、速やかに東西の境界線を策定し、第二の国として独立したほうが良い。それが貴殿らや民のためよ」  そう。彼ら穏健派の本懐とは慎重論。独立という形を用いて、東の政権と正式に袂を分かつ事にあった。  今、肝要なのは東西の武力衝突が、いつ勃発するのか、或いは回避されるのか──白黒つかぬ事に対する民の不安。これを取り除く事。  それが、主張の根底であろうと思われた。
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