第1章

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 先刻からの『民兵の徴用』という無理難題は──言わば、この主張へと繋げるための『誘導』。  一度、極論を展開し、そこを起点として様々な案を提示し、模索させ、そして、結論を意のままに操る。  ──議論の初歩的手法。使い古された技法である。  だが、穏健派の者達はみな老練なる弁士。長きにわたる経験に裏打ちされた技術によって、それは忽ちの内に堅固なる言論の盾へと昇華させていた。  対する強硬派の者達は、殆どが若く、血気盛んなだけの武人、及び、これに同調する貴族のみといった有様。  最初の猛然たる勢いは既になく、穏健派の掲げた強固なる盾の前に、誰もが言葉を失っていた。  ──流石、手強いな。  事の成り行きを終始、玉座に座して聞いていたアリシアは騎士団の敗北を察した。  だが、これは最初からわかっていた結末でもあった。  それだけ、五十余年前の内戦というものが如何に凄惨なものであり、その記憶を有する老年齢層の者達の納得など到底得る事はできぬであろう、と。  無論、アリシアとて無為に血を流す事などしたくはない。  かつて『聖戦』とまで言われていた過去の戦、それに対する批判や総括が出始め、『聖都奪還を命じた当時の王家の判断は早計』という論が支配的になりつつある昨今、再び武力の行使を決断するのは困難。  だが『ウェルト報告書』が公開され、東の政権による非人道的な所業が明らかとなった今、悠長に構える訳にはいかぬ。  あの孤島バスクの『施設』が政権下で運営されていたという事実がある以上、ラムイエ政権が民の権利というものを極めて軽視しているという事に他ならない。  彼らの悪政は必ずや東の民を蝕む事だろう。最悪の場合、第二、第三の『施設』が造られ、人々を再び苦しめ始めるのかも知れない。  一日も早く、王都をラムイエの呪縛より解放せねばならぬ。  東の民のうち一部の者は、厳格な──言い換えれば、潔癖で清濁併せ呑む事を知らぬアリシアを嫌い、流れていった者も多い。  だが、それでも助けねばならない。彼らごと。  今や敵対する政権の支配下に置かれている彼らもまた、本来は自分の臣民であるのだから。  その為には西方地域の重鎮である穏健派を説得し、取り込まなければならない。  だが、現実はこの体たらく。前途は多難であると言えよう。  アリシアはそっと、ある方向に視線を向ける。
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