第1章

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 それは強硬派の者達がいる席。屈強な武人らが居並ぶ列座の片隅、目立たぬように座する一人の少女へと。  僧衣を纏った黒髪の少女──セリアであった。  アリシアの視線に気づいたセリアは一度頷いた後、静かに席を立ち、歩き出した。  再び論戦を挑まんとする隣人を横目にして。会議場の出口に向かい──目立たぬように。  目の端でそれを見届け終えたアリシアは勢いよく立ち上がり、声を荒げた。 「もうよい! これ以上、議論を続けたとしても、建設的な結論など出はせぬ! この話は騎士団側が新たな説得の材料を用意でき次第、新たに議論の場を設けるとする!」 「しかし、アリシア殿下!」  その言葉に当の騎士団側が驚きの声を上げた。  アリシアは西側勢力の頂点であると同時に『聖騎士』の称号を戴く正規の騎士でもある。  言わば、騎士団側の人物であると言えよう。  そんなアリシアが、事もあろうか騎士団側の発言を制し、議論の打ち切りを宣言したのであった。  この仕打ちに、騎士団の代表者らはアリシアに食い下がる。 「『報告書』の公開により、東への進攻を支持する声が高まりつつあります。民の声を無視されるおつもりか?」 「勢いだけで押し切れるほど論戦とは甘いものではない。道理に沿い、論を組み立ててから出直せと言っている!」  だが、アリシアも臆さず、一喝のもとで反論を封じた。  騎士団側に属するアリシアが止めねばならぬほど、騎士団の主張・論旨は、勢い任せの感情論に頼った──あまりにも稚拙なもの。  故に、一度反論を許せば、相手の論調に嵌められてしまう。  まるで我儘な子供を厳しく諭す大人めいた様相。  騎士とは所詮武人である。戦場や魔物からの防衛が本来の役目ゆえ、このような場には慣れぬのは道理。  だが、それを差し引いても、今日の議論は、あまりにも酷い──正視に値せぬ有様であったのだ。 「それよりも、我々にはもう一つ──解決せねばならぬ問題があるではないか。それの解決を優先させる。その間に騎士団はしっかりと襟を正し、しっかりとした論をもって主張する体制を整えるように」  そう言うと、彼女は小さく溜息を吐いた。 「また、あの男に頼らねばならぬのか。いまだ傷の癒え切れぬ、あの男に──」  そして、誰にも聞こえぬ小さな声で呟いた。 「──情けない話よ」  <3>
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