第1章

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「セリア……か」  上半身を起こし、大きな欠伸をしたウェルトは、その視線をセリアと呼ばれた少女へと向けた。  だが、その目は寝ぼけ眼。普段の炎の如き覇気は一切感じられぬ。 「また怠けてお昼寝ですか……と言いたいところですが」  言いかけ、セリアは軽く溜息を吐いた。 「ウェルトさんは公式の場への出入りは禁じられていましたね」 「おかげで退屈さ」  そう言うと、ようやくウェルトは立ち上がり、ズボンに付着した土や草を手で払う。そして、大きく伸びをしながら彼は少し抜けたような声でセリアに問うた。 「それで……会議の様子はどうだった?」  促された刹那、セリアの表情は少しだけ暗くなった。 「──やはり穏健派は、武力の行使には消極的なようです」  そして、ゆっくりと──まるで言葉を選んでいるかのように彼女は語り出した。 「折角ウェルトさんがまとめてくれた『施設』に関する報告書も、公開の結果高まった世論も、一時の熱病のようなものと切って捨てただけではなく、開戦を求める若年者層の声を無責任な発言とし、その担保として彼らの徴用を求めてきました。彼らがそれ応じる程、自分の言葉に責任を持つ覚悟があると証明できなければ、武力行使には賛成できないと」  セリアの口調は重い。 「それに対し、『施設』の存在を知り、東の政権の有様を垣間見てしまった以上、これ以上の犠牲者を出さないためにも、一日も早くラムイエを打倒しなければ──というのが騎士団の主張です。ですが、彼らも彼らで、東の政権に対する武力での打倒ばかりを主張するばかりで、他の案には耳を貸さぬ有様。その上、発せられるは感情的な主張ばかりで説得力に乏しく、穏健派を説得できるほどのものではありません。以降、議論は平行線のまま──暫く進展は見られないものと思われます」  そう言い、尼僧は溜息を吐いた。 「私も可能ならば武力衝突なんて避けるべきだとは思います──とは言え、一度方針が決まりさえすれば、我々も覚悟の決め様もあるというものですが、こうやって何の結論も出ずに無為に時間が流れるというのは、やはり見ていて歯痒いものです。恐らくそれはアリシアさんも同じ気持ちだと思いますが……」  そんな重々しいセリアの様子とは異なり、報を聞いたウェルトの反応たるや、まさに平然としたものであった。  あろう事か彼は、まるで納得したかのように頷いて見せ──  そして、こう言った。
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