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「──なるほど。レオン議員らしい発言だね」
「レオン議員?」
「来ていたんだろう? 穏健派の先頭に立っていた御老体が」
「──え?」
この青年の言葉に、流石のセリアも驚き、素っ頓狂な声をあげた。
「お知り合いなのですか?」
ウェルトは即座に頷いた。
「ああ。子供の頃に何度か──生前の祖父母上様とは長い知己の間柄だったみたいでね。先の内戦末期、西方の市民らによって結成されたソレイアに対する抵抗組織の主導者を務めていて、その折に知り合ったとか。その後、義勇軍として聖都奪還の戦に名目上は傭兵、実質上は民兵として参加したのだそうだ」
「では、あの発言は──」
「多分、レオン議員の実体験のはずさ。かつて祖父母上様が指揮を執っていた分隊ではなく、本隊に従軍していた際のね。そんな経験を経た人からすれば、今の状況に辛辣な意見を言いたくなるのは当然の事。かつては命を捨てる覚悟で立ち上がり、戦いに臨んでは多くの仲間を失い、そして自分も命を落としかけた。そうまでしないと故郷を取り戻す事はできなかったし、平和な世の中を手に入れる事も出来なかったんだからね。一般の庶民が──だ」
そして、ウェルトは続ける。
だが、今はどうかな?──と。
「今まで僕は剣で色々なものを殺めて来た。セリアを迫害していた大聖堂の僧兵たち、そして『区画』の人達を迫害していた市民に至るまでね。僕はね、そんな彼らと──開戦を求め、声をあげている人達と大きく重なる点があると感じている」
この意味深長な物言いにセリアは興味を覚えた。
「重なる点……ですか?」
その感情の赴くまま、尼僧は若き騎士を促す。
促されるまま、ウェルトは答えた。
「──『遊び半分』なのさ。その証拠に、彼らは皆、何が起ころうとも『自分は大丈夫』と無根拠に信じてやがる。だからこそ、あいつらの言葉は全く心に響かない」
だが、その口ぶりは──まるで悪態をつくかのような。忌々しげな言葉を吐き捨てるかのようだった。
「如何に異なる考え。たとえ、第三者的な視点で見ても悪と判断できるものであったとしても、やむ得ぬ事情があり、その上で、自分の矜持に則り、責任や覚悟の上で行動に出ているのならば、同調こそ出来なくとも、一定の理解はできるはず──だが、彼らには、その『真剣さ』が足りないんだよね」
「そう……ですね」
セリアは天を仰ぎ、短い祈りの言葉を捧げた。
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