第1章

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 部屋の奥へと向かい、まっすぐと伸びる赤い絨毯。その先にある五段ほどの階段の上。  至高なる黄金の玉座を。  そこに腰をおろし、まるで自分を見下すような視線を投げかける一人の女性の姿を。  その名はラムイエ。  この国における仮の元首にして、大陸東部を支配する勢力の頂点に君臨する女であった。  ガルシアは、この眼前の女と相見える度、まるで化け物と対峙しているかのような緊張感を覚えていた。  ──いや、本当に化け物なのかも知れぬ。  その根拠は以下の二つ。  第一に、傍目には十五、六に見えるであろうこの女は、この世に生を受けて三年にも満たぬ幼子であるということ。  彼女の叔母にして後見人である錬金術師アーシュラの術によって、彼女の肉体は加速的な生育が促されているのだという。  錬金術の素人に過ぎぬガルシアには、それが如何なる方法や理論による現象であるのかわからぬ。そして、それを聞こうにも、当のアーシュラが数ヶ月前に行方を眩ませており、その消息は杳として知れぬ。  第二に、その肉体が成人のそれに近くなるにつれ、強烈に帯び始めた気配。  それは王者に相応しき人間が纏う覇気めいたものであり、また同時に、高位の魔物や悪名高き妖術師の類が漂わせる妖気めいたものでもあった。  一言で譬えるならば──『魔性』  それ以外に、眼前の女を形容する言葉が見つからぬ。  黒騎士は、おのれの肉体に微かな戦慄が走るのを感じていた。  彼女ほど、足元に広がる『血の海』の上に立つに相応しい人物などいない──そう思い至ったが故に。 「──面白い余興だったわ」  不意に、空虚な室内に声が響き渡る。  それは人の心が弛緩する際に発せられる、虚飾なき言葉。  純然たる感情の吐露であった。 「かの孤島に建造された『施設』の中で絶えず繰り返される三種三様の責苦。それに苦しめられる弱者の姿。そして、それを娯楽として愉しむ事を覚えた愚者の姿──この国の人間というものが如何に下劣な存在であるという事が心底より理解ができ、極めて有意義な時間でありました」 「お言葉ですが、ラムイエ殿」  黒騎士の長は言った。 「あのプリシラという女が失態を犯した影響によりアリシア派の連中は相当に勢いづいている模様。首領のアリシアは明言こそ避けてはおりますが、西では民も兵も声を揃えて政権の討伐を強く求めているとの事。このままでは我々は──」
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