第1章

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 大陸中央部に位置する、巨大な商業都市。  エッセル湖の北に位置する湖岸にありながら、すぐ北には、大山脈が迫り出している。  街は湖と山脈の間にある僅かな平原の上に造られ、古来より東西の玄関口としての機能を果たし、今も尚、交易の中心として長きにわたり発展を遂げ続けていた。  豊かな土地ゆえ、街は繁華街から郊外に至るまで整備が行き届いており、その街並みは華やかにして美しい。  そんな街の姿と、その先に広がるエッセル湖を一望できる絶景が手に入るともなれば、騎士でなくとも北の高台に居を構えたがる物好きが現れるのが世の常。そんな道楽者が麓の斜面に家を建てれば、忽ちの内に道が整備されていった。  こうして、北の高台は街の中心部に次ぐ第二の高級邸宅街へと姿を変えていったのである。  そして、そんな北の山に建てられた多種多様な建造物のうち、一際目立つものがある。  それは城砦。  邸宅街の中で最も高い箇所に建てられし堅牢な小城であった。  外壁を構成する石垣は真新しく、経年による風化や劣化の類は然程見受けられぬ。  ──十数年前、新たに建造された騎士団の活動拠点であった。  今や東の王都や周辺地域に替わり、経済の中心的役割を担うようになったエッセル湖周辺の街や集落には、仕事や商売の機会を求める者達が日々流入しはじめていったのである。  こういった人間の動きを魔物が目ざとく察したのだろう。街は度々魔物の襲撃を受けるようになった。  原因は増大していく人口であった。  無秩序に広がり続ける街の規模に対し、これらを防衛する騎士の人数や防衛施設が致命的に不足していた。  そう。この城砦は、そういった防衛力を補うために建造されたもの。主に北の山中に巣食う魔物から街を守る役割を担う、グリフォン・クラヴィス最大の防衛施設であった。  事実上の内戦状態にある現在、分裂した国の東西の境界線上に位置するこの小城は、西の勢力を担い、現政権に反旗を翻す騎士団にとって、魔物と東の勢力──二重の意味において最も枢要な最前線基地でもあった。  そんな枢要なる砦内の一室。強固な石壁と、見張り櫓による防衛が二重三重と張り巡らされている小城の最奥。  そこで繰り広げられたいたのは──戦であった。
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