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醜い容姿が災いしてか、この長い人生の中、好意的な言葉を述べられる経験のなかった男は、この不意なる謝辞の連続に堪えきれぬほどの照れを感じずにはいられなかった。
「だが、面倒を見るのは明日、境界線に辿り着くまでだ!」
故に、彼は声を大にして言い捨てる。
「西に入った後は近くの境界警備隊の砦にでも出向いて泣きつく事だ。そうすれば、近くの集落までの護送の手配くらいはしてくれるだろうさ」
「護送の手配……ですか?」
「……ああ」
尋ね返す追放者達の顔を真正面から見返すことができぬ照れ屋の強面は軽く頷いた。
「──俺も事情は良く知らないが、噂によると最近、東からの難民が急激に増えているようで、それを受けて、西ではあんた達のような人達に対する支援を始めたとの事。事情を話せば手を差し伸べてくれるだろうさ」
戦士は続けた。
「俺としては割が悪くともこうやって護衛の仕事にありつけて、尚且つ何かと息苦しい東から離れられる口実が作れたのだから好都合ではあったのだがな。──やはり難民が増えたのは、昨年から東と西の衝突が始まり、彼方此方で戦禍を被り始めたからか?」
その問いが発せられた刹那、追放者らの誰もが俯き、表情が強張らせるのみ。苦悶、悲痛、そして悲愴──顔に浮かべる色彩は様々であったが、その何れも明るきものはない。
重々しく口を閉ざしたまま、これに答えを与える者はいなかった。
ただ、一人を除いては──
「私たちは『密告』を恐れたのです」
それは、戦士の側に立ち、言葉を交わし続けた女であった。
「──密告だと?」
「ええ」
女は小さく頷いた。
「我々が住んでいた王都では、西方のアリシア殿下に対する支持を厳しく禁じられており、その一環として市民達に密告を奨励しているのです。支持者を炙りだすために」
語る彼女の表情は真剣そのものだった。
決して、嘘や偽り、夢や妄想を語るような態度ではなかった。
「なるほどな」戦士は女の真摯さを感じ、得心して頷いた。
「おおかた、あんた達も何かの拍子でうっかり口外してしまい、処罰を恐れて着のみ着のまま逃げ出して来たといったところか」
「俺たちは現政権に対する不満の声をこぼしただけだ!」
追放者のうち、荷車を引く男の一人が涙ながらに声を荒げた。
「あんな働きの悪い隣国の騎士団を呼ぶために去年、俺たちの私財が大量に徴収されたんだ! それに飽き足らず奴らは今年も……」
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