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門の両脇には番兵と思しき、簡素な槍と甲冑で武装した四人の男が立っていた。
番兵の長と思しき男は立派な髭を蓄えた中年の男で、東から逃れて来たという事情を知るとひどく憐れみ、形式的な質問と簡易的な身体検査の後、手下の者に開門を命じた。
こうして、追放者たちの前に門が開かれ、自由への道が示されたのである。
しかし、門を潜り終えた彼らが目にしたのは、夢見た希望とは程遠い光景であった。
魔物除けの背の低い柵に囲まれた一角だけがそこにはあった。
粗雑な天幕や、木造の小屋が所狭しと並んでおり、これらの間隙を縫うかの如く、姑息的に舗装された狭き通りが複雑に絡み合う。
あまりにも静かな、静かすぎる場所であった。
立ち並ぶ天幕全てが無人であるかのように、気配すら感じられぬ。
その様は廃村を連想させた。
東側より見える頑強な門が、まるで張子の虎と思えるほどの貧相な光景。
砦と思しき建物はすぐに見つかった。
いや、それは砦と呼ぶより、石造りの大きな館というべきか? 正確には一角を管理する者達の詰所なのだろう。
一行の足が、自然とそちらへと向かう。
「──そちらに何か御用ですか?」
その時、後方より不意に声がかけられた。
「東から逃れて来た方達と見受け致しますが──今はみな出払っており、不在との事。私で良ければ対応致しますが」
遠慮がちにかけられたそれは少女と思しき声。
全視線が一斉に、後方に立つ声の主へと集まる。
振り向いた視界の先に現れたのは僧衣を纏いし、長い黒髪の少女であった。
腰帯に戦槌を吊り下げ、僧衣の隙間より銀色に輝く鎖帷子が覗く。
ここは一見、集落めいてこそいたが、他のそれに見られるような騎士隊による防衛も碌に施されておらぬ場所。その上、敵地との境界線である。
極めて危険な地帯であるとも言えよう。故に、このような尼僧ですら武装行為は日常なのであろう。
だが、そんな環境下であるにも関わらず、眼前の少女は穏やかなな笑みを浮かべていた。それは当然、心に余裕がなければできぬ行為。
見れば、彼女の腰に下げられし鎚からは見たこともない強い輝きを放っていた。言い換えれば業物の剣が放つそれに似た光。
一行を率いる、強面の戦士の表情が──厳しくなる。
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