第1章

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 Bは犬の散歩の仕方に関してかるさかった。  犬は発情期だった。  Bというと、Aは男だ。正確には男の娘だ。  いや、死語である。  Aは言った。 「わぁ、さむぅい。スカート短すぎたかもぉ」  犬ははぁはぁいいながら、飼い主を見上げた。いや顔ではない風で捲れあがるスカートの中に視線が向かっていた。  前が捲れば前に後ろが捲れれば後ろに下がる。  Bはそれが我慢ならなかった。 「違う、リードの持ち方はそうじゃない」  そんな声はAには届かない。かれはロングスカートに履き替えるか考えるので忙しいのだ。  またひらりとスカートが捲れあがる。興奮した犬がワンと吠えれば石畳を覆う鳥が驚いて飛び立って行く。 「もー最悪」 「最悪なのはこっちだ」  鬼が振り返るまでそう時間はかからなかった。
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