第1章

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 うーん、と美奈は考え込んだ。確かに唐突な問いだ。 「正式名称 ギリシャ共和国、首都 アテネ、宗教はギリシャ正教。公用語はギリシャ語だけど、トルコ語とかも使われていたと思うわ。EUに入っているから、ユーロが使えたはずよね」  地図帳か何かを読み上げているかのような琴音の台詞はさすがと言える。伊達に優等生をやっていない。 「歴史的には、やっぱり古代ギリシャに繁栄を極めたと言えるわね。アリストテレスとかプロトンとか、有名だし。……そういえば、あの頃の建物とかはいい観光資源になっていたわよね」  これには雄希も素直に感嘆せざるを得なかったようだ。 「……すごいな」  親友の、普段どおり冴えた頭に、美奈はややうつむき加減になった。自慢の親友だし自分もすごいとは思うが、どうして自分はこうなのだろうと疑問に思う。頭の出来が根本から違うのだと、理性ではわかってはいるつもりなのに。  東さんは? と水を向けられて美奈は顔を上げた。 「私も古代ギリシャのイメージが強いかな?。パルテノン神殿とかあの布巻いただけっぽい服とか」  鞄の中に入れていたジュースを取り出して飲みながら、一つ忘れていることに気づく。 「あ、あと、神話とかね」  その言葉を聞いた雄希の表情がわずかに変化する。 「神話?」  世界的にも有名な、自分の国の神話なのに知らないのだろうか。 「うん、ギリシャ神話。『金のリンゴ』とか……知らない?」  日本でもそういう人は多いのでさほど意外には思わないが、ギリシャでもそうなのだろうかと美奈は寂しく思った。 「いや、知ってるよ。よく……知ってる」  意外な返答だったが、ギリシャではギリシャ神話はちゃんと広まっているのだと思うと、自然と肩の力が抜けた。 「なんだ、知ってるんじゃん」  雄希は雄希で、日本に知っている人が居ると思わなかったらしい。実際、クラスの面々にギリシャと聞いて思い浮かべるものを聞いたとき、神話は挙がらなかったという。  向こうは向こうで意外だったと思っていたことがわかり、美奈は琴音に水を向けた。 「ねぇ、琴音。ギリシャ神話ってそんなにマイナー?」  神話好きの美奈としては、クラスの面々の反応がピンと来ない。彼らが物知らずというだけではないだろうか。 「『聞いたことはあるけど、中身はよく知らない』って人が殆どだと思うわよ」 「え?、そういうもん?」
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