第1章

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   ギリシャ風学園生活 「いやー、何日かぶりに晴れたねぇ」  東 美奈は久しぶりの晴天を見て大きく伸びをした。 「そうね。うちのお手伝いさんも、今日は布団を干すって張り切っていたわ」  応じた藤野 琴音の髪が、窓からの風に吹かれてなびく。 「確かに、今日は絶好の洗濯日和だねぇ」  窓の向こうの空は澄み切っている。雲ひとつないいい天気で、天気予報でも今日は一日快晴だと言っていた。  北海道なので梅雨があるというわけではないが、ここ一週間ほど、雨だったり雲だったりという天気だったので久しぶりの青空なのだ。 「でも琴音、晴れ! 平年よりちょい高い気温! と来れば!」  嫌な予感を覚えながら、琴音は相手の言葉を待った。 「女の子の薄着じゃーん!」 「何を言っているのよ、この変態!」  琴音が手に持っていた扇子を閉じて美奈を叩こうとした。  しかし、美奈はすかさず、琴音の机の上にあった筆箱で防いだので、不発に終わった。付き合ってそんなに長いわけではないが、美奈は親友の琴音の行動など見越していたのだ。  女の子のボディラインがどうこうと変態発言を続けている美奈はこげ茶の髪を肩より少し長いぐらいで切っている。同年代の女子に比べるとやや小柄だが、それを除けばどこにでもいる高校二年生だ。  美奈の話を呆れ顔で聞いている琴音は美奈の親友かつ同級生で、学級代表を務めている。腰より少し長いところまで伸ばしている黒髪は綺麗で、偏差値もスタイルも他の生徒より抜きん出ているのは誰もが認めているところだ。  二人とも、やや緑がかった黒のブレザーとそろいのスカートをはいている。主に学費、偏差値という二重の意味で道内一を誇る、私立陽緑学園高等部の制服だ。  それなのに、琴音のほうは清楚な印象すら受けるのだから不思議である。 「はいはい、朝のホームルームはじめるぞ?」  開いていたドアから、若い女が欠伸しながら入ってくる。  えっちゃんこと井野 えりこは、美奈たち二年D組の担任だ。  自席へ戻ったりおしゃべりをやめなかったり、まだまだうるさい生徒たちに彼女が言った。 「今日は留学生の紹介もあるから話すこと多いんだよ。わかったらさくさく動いて口閉じる!」  留学生? という戸惑いとざわめきが生徒の間に広まる。美奈と琴音も例外ではない。  だが、静かにしなければ留学生が待ちぼうけを食らうのもわかっているので、いそいそと沈黙が用意された。
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