第1章

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 食堂に入って早々、適当な席を見つけられたので、鞄をよけてもらって確保する。とりあえず昼食を確保しなくては。美奈がさっさと天丼を持って戻ると、親友がお弁当を広げながら気になることを言った。 「ねぇ、美奈。気づいていた?」  ん? と美奈が海老天をほおばる。琴音の言いたいことなど、見当もつかない。 「雄希とか言うあの留学生、ずっとあなた見ていたわよ」  予想もしなかった言葉に思わずのどを詰まらせ、さらに海老天の尻尾がのどに刺さったために状況が悪化した。だが、大丈夫かと聞かれても、長机の真ん中に向かい合わせで座っているのでどうしようもない。 「けほっ、けほっ……。どういう意味? ってかなんで?」  流れとしてその質問はおかしなものでもないが、琴音の回答はおかしかった。今日の琴音はボケキャラなのだろうか、と疑ってしまう。 「文字通りの意味よ。理由は分からないけど、一目ぼれだったりして」  未だ少しひりひりするのどを落ち着かせるために飲もうとしていた水を噴きそうになるが、それを堪えたのは美奈の賢明である。本当に水を噴いていたら、琴音の怒りは必至だっただろう。  昼休みに聞かされた爆弾発言のせいで、午後の授業の間中、美奈はずっと集中できなかった。もっとも、数学と世界史だったのでもとより真面目に受ける気などないが、いつもより集中できず、ちらちらと雄希へ神経がいってしまっていた。 「では、二週間以内に返してくださいね」 本を借りに来た生徒にそう言いながら本を渡してやる。放課後の図書室ではおなじみの光景だ。  去っていく背を見ながら世界史の授業を思い出し、美奈はまたため息を付いた。先生に当てられた時、どこを当てられたのか、さっぱりわからなかったなどと、言語道断だ。  そう思ってまた凹んでいると、図書室常駐の司書が声をかけてきた。 「あなた、副委員長だったわよね? 何であのうるさい集団に注意しないの? ちゃんと仕事したらどうなの」  彼女が指した集団は、これぐらいなら、と思って目をつぶっていた集団だった。どうやら司書の許容レベルを超えていたらしい。  すいません、と司書に詫びを入れた上で委員の相方にカウンターを任せる。
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