第1章

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 やや物陰になっているテーブルのあたりへ来た時、美奈は本日何度目かのため息をついた。カウンターに居た時から聞こえてくる声でおおよその想像はついていたが、集団の中に午後の授業妨害の原因がいたのだ。 「あ、東さん」  テーブルに座っている一人が美奈に気づいた。平野という、同じクラスの生徒だ。 「どうしたの……って、図書委員だっけ」  美奈は首肯した。平野の言うとおり、美奈は図書委員会の副委員長でもあった。  すべからく委員はクラスから二名選出されるので、忘れている場合はともかく、知らないということは基本的にありえない。 「うるさいって苦情来てるよ。図書室に居るなら、もうちょっと静かにしてくれる?」  言外に、うるさくするようなら出て行けとにおわせたが、反省の色があるのは平野だけだ。他の面々はごめんと言いつつも気にする気配がない。  このままではまた繰り返すだろう。どうしたものかと思っていると、雄希が口を開いた。 「東さん、だよね。じゃあ、委員の仕事が終わってから、ちょっと付き合ってもらえるかな」 「え?」  美奈は思わず聞き返した。無理もない、あまりに唐突な頼みごとだ。  雄希は意に介さず、言葉を続ける。 「それまで静かに待ってるよ。なに、大して時間はかからない。色んな女の子と話してみたいだけだから」  なんて不純な動機だろう。  だが、ナンパみたいな雰囲気はない。単純に、色々な人と話して相手のことをよく知りたいだけのようだ。 「いいよ」  気づいたらそう答えていた。雄希が笑顔になって、美奈は始めて、自分が無意識に頼みごとを引き受けたのに気づく。  じゃあ後で、と雄希が手を振る。  周りの女子たちの反応をうかがってみるが、誰に対してもこのような雰囲気らしく、不服や妬みといった感情は特に感じられない。  そんなに時間がかからないのならまあいいか。美奈は雄希に手を振り返してカウンターへ戻った。  結論から言うと、その頼み事は聞けなかった。東一家が急遽外食へ行くことになり、学校から直接向かったからだ。 「美奈、今日の学校はどうだった? さっきの男の子が例の留学生だよね?」 車の中で母、聖香が美奈に聞いた。  雄希とは校門まで一緒だったため、東家は全員彼を見ていた。 「母さん、『例の』って何?」 「PTAからの手紙で書いてあったのよ。美奈のクラスだとは思わなかったけど」
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