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父親は少々頑固だ。しかし、美奈のことを大事に思ってくれているのはわかっているので、美奈は素直に首肯した。
その数日後の昼休み、美奈はクラスの女子と昼食をとっていた。普段は琴音と食べるのだが、その琴音に委員会という用事が入ってしまったのだ。
「ところで美奈ちゃん、好きな人とかいないの?」
そして恋愛話に花が咲くのは、女子が集まれば仕方がないだろう。
「いや、美奈ちゃんはお兄ちゃんっ子でしょ」
あ、そっか、と最初に問いかけた女子――平野が笑ってツインテールがその拍子に揺れる。
美奈のブラコンぶりは女子なら誰でも知っているので、先述の質問は愚問以外の何物でもない。
「二人共、居るの?」
美奈が水を向けると、一緒に話していた女子、平野と梅咲は照れくさそうに笑った。
やはりいるのだろう。このぐらいの年頃なら当たり前のことだ。
照れたり恥ずかしそうにしたりしながら恋する乙女を見ているのは好きなので、美奈はニコニコしながら二人を見ている。
平野は残念そうにため息をつき、片付けた弁当箱の上にあごを乗せた。その仕草はひどく幼く、クラスの妹と言われるのも当然だった。
「そっか。美奈ちゃんはお兄ちゃんが好きなんだもんね。あの『おまじない』を教えてあげようと思ったんだけど」
話は聞いたものの、未だ試したことがないので一緒に試す相手として美奈を選んだらしい。
「あの『おまじない』?」
美奈は首をかしげた。
「両思いになれるとか、イイ人が見つかるとか、恋愛関係の願い事なら何でも叶うんだって。知らないの?」
梅咲が笑ったが、初耳の美奈は素直に首肯する。
「フェルトでも何でも良いから、人の形の人形を作ってね――」
「何を引き換えにしても構わない」という強い念をこめて人の形の人形を作り、中に自分の髪の毛と自分の願いを書いた紙を入れる。そしてその人形をお菓子と一緒に特定のロッカーへ奉納すれば願いが叶う――。
実のところ、美奈が知らなかっただけで、その『おまじない』はけっこう広まっていた。先日、美奈が雄希たちを注意した時の話題も、実はこれだったのだ。
雫が落ちた水面に波紋が広がっていくように、密やかに。中心となっている女子高生のほかに男子も加わっているので広まり方は他のおまじないの比ではなかった。
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