第1章

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 やがて毎晩のように札幌のどこかで『おまじない』が行われ始め、そのロッカーにはフェルトの人形とお菓子があふれ始めていた。  それが何を招くかも知らずに。 「……あっつ?い」  美奈が回転箒の柄の上にあごを乗せてぼやいた。  無理もないだろう。二十七度という北海道では標準的な夏の気温だが、あいにく、今は風がない。その中、本来六、七人で掃除する教室を三人で掃除しているのだ。  琴音が「手を動かせ」というような雰囲気で背を叩く。そしてすぐに顔をしかめた。半そでのブラウス越しに叩いた背中が湿っていたからだ。 「二人休んで二人サボりだものね……」  休んだ二人はともかく、サボった二人は不良なので美奈も諦めていた。学級代表の琴音は気づいてすぐ追いかけた。しかし、時すでに遅く、玄関に行った頃には姿が見えなかったそうだ。  ガラガラと音を立てて机を出しながら、雄希も言った。 「ここのところ、休む人が増えてるね。日本の夏って毎年こうなの?」  それならもっと夏休み増やせばいいのに、という意見には賛成だが、その分宿題が増えたり授業のスピードが上がるのかと思うと安易に喜べないのは美奈だ。それとも、海外の夏休みには宿題がないのだろうか。 「そんなことないよ。夏バテする人は確かにいるけど、それにしては多いような……」  掃き掃除を再開した美奈が、ねぇ? と親友に問いかける。  その足元でちりとりを使っていた琴音は、埃を集めながら同意した。 「だいたい、夏バテや夏風邪ごときでこんなに休んでどうするのかしら。テストだって近いのに」 「ぎゃー! 嫌なことを思い出させないで、琴音ー!」 美奈が回転箒を持ったまま頭を抱える。箒についていた埃が散らばるので琴音が抗議したが、今の美奈には聞こえていない。  琴音の言うとおり、テストは一ヵ月後に迫っていた。 「『ここはテストだけじゃなくて受験でも出るぞ』って言われてる範囲、ちらほらあるしね。どうなることやら……」  雄希の追い討ちに、美奈はうめき声を上げて廊下へ逃げた。用済みとなった回転箒を片付けるためでもあるが。  廊下の掃除用具箱から戻ってくると、休んだ二人のお見舞いに行こうという話が持ち上がっていた。 「梅咲さんの家なら僕の家へ行く途中だし……」 「それはいい話を聞いた」 「誰っ?!」  突然の声にノリで応じたものの、美奈には誰の声かわかっていた。もちろん、琴音にもわかっていた。 「井野先生」
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