スリーピングワールド -ナイトメア-

13/13
前へ
/13ページ
次へ
 それに、首を刎ねてやったところで、死んだ方がマシだと思えるほどのケイトの痛みは、一ミリたりとも癒されやしないのだ。  やり場のない怒りに、奥歯が折れるほど強く噛みしめている蓮司に、ケイトが微笑みかけた。 「蓮君……私、よくわからないけど、蓮君はきっと私のために必死に戦ってくれたんだよね?」 「……言ったろう、知らなくていいと。……お前は何も――」  フワリ、ライトブラウンの長い髪からフローラルな香りが舞い立つ。  チュッとくちびるを塞がれ、驚いて一瞬目を見開いてしまうが、すぐに目を閉じてケイトをきつく抱きしめた。  そう――あんな風に心を結んではいけない。  きっとこのキスのように、やさしく温かい気持ちだけが、二人の心をいつまでも繋ぎ続けるのだ。   *** 「――ねえ、またアンタさー、アイツの事見てただろ?」 「え、……えっとおー、どうだったっけ……?」  しらばっくれんじゃねーぞ? 見てるこっちが引くから、ほどほどにしとけよ? ――  キャハハハ、やめなって、あんまイジメんなって! ――  いや、だってコイツさ、バカなんだもん ――  高校三年生のクラス。昼休みも終盤に差し掛かった頃、教室の隅の席に座る、眼鏡をかけたおとなしそうな少女が、複数名のクラスの女子に取り囲まれていた。  毎日お馴染みの光景。  きっかけは、物静かな少女が生徒手帳に挟んでおいた一枚の男子学生の写真を、クラス一、騒ぎ立てる女子生徒に見付かってしまった時。  それ以来、校内を見渡す度に言いがかりをつけられていた。 「あれ、こんな時間だ。……撤収、撤収」  そうだね、行こ行こ――  取り囲んでいた女子達が散ると、眼鏡の少女はおさげ髪をひと撫で、誰にも聞こえないため息つき、そっと机の中に手を入れ生徒手帳を握りしめる。  ――蓮司君。……もうすぐあの付きまとっている女から助けてあげるからね……  顔を隠すように俯くと、少女はニッと口の端をつり上げて狂気に満ちた笑みを浮かる。  片思いの果てにいつしか自分が『彼女』であると事実を歪めてしまい、それを知らずに心の中で妄言を呟き続ける。  ――もう殺り方はわかったから……またネットで仲間集めて、今度こそ本当の世界であの女、ブッ潰してやるからね。 (終わり)
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加