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それに、首を刎ねてやったところで、死んだ方がマシだと思えるほどのケイトの痛みは、一ミリたりとも癒されやしないのだ。
やり場のない怒りに、奥歯が折れるほど強く噛みしめている蓮司に、ケイトが微笑みかけた。
「蓮君……私、よくわからないけど、蓮君はきっと私のために必死に戦ってくれたんだよね?」
「……言ったろう、知らなくていいと。……お前は何も――」
フワリ、ライトブラウンの長い髪からフローラルな香りが舞い立つ。
チュッとくちびるを塞がれ、驚いて一瞬目を見開いてしまうが、すぐに目を閉じてケイトをきつく抱きしめた。
そう――あんな風に心を結んではいけない。
きっとこのキスのように、やさしく温かい気持ちだけが、二人の心をいつまでも繋ぎ続けるのだ。
***
「――ねえ、またアンタさー、アイツの事見てただろ?」
「え、……えっとおー、どうだったっけ……?」
しらばっくれんじゃねーぞ? 見てるこっちが引くから、ほどほどにしとけよ? ――
キャハハハ、やめなって、あんまイジメんなって! ――
いや、だってコイツさ、バカなんだもん ――
高校三年生のクラス。昼休みも終盤に差し掛かった頃、教室の隅の席に座る、眼鏡をかけたおとなしそうな少女が、複数名のクラスの女子に取り囲まれていた。
毎日お馴染みの光景。
きっかけは、物静かな少女が生徒手帳に挟んでおいた一枚の男子学生の写真を、クラス一、騒ぎ立てる女子生徒に見付かってしまった時。
それ以来、校内を見渡す度に言いがかりをつけられていた。
「あれ、こんな時間だ。……撤収、撤収」
そうだね、行こ行こ――
取り囲んでいた女子達が散ると、眼鏡の少女はおさげ髪をひと撫で、誰にも聞こえないため息つき、そっと机の中に手を入れ生徒手帳を握りしめる。
――蓮司君。……もうすぐあの付きまとっている女から助けてあげるからね……
顔を隠すように俯くと、少女はニッと口の端をつり上げて狂気に満ちた笑みを浮かる。
片思いの果てにいつしか自分が『彼女』であると事実を歪めてしまい、それを知らずに心の中で妄言を呟き続ける。
――もう殺り方はわかったから……またネットで仲間集めて、今度こそ本当の世界であの女、ブッ潰してやるからね。
(終わり)
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