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「ええ…恥ずかしながら何をやっても上手く行かなかった我が人生に終止符を打とうとしている所、坂下様に救って頂きました。」
「終止符って…。」
「わたくしはこの仕事に付くまでは些かヤンチャをしておりまして、自暴自棄になっておりました。」
何処をどう取っても隙の無さそうな彼を見ていると、想像の付かない話しだった。
「そんな生活にも嫌気が差し、いい加減、この命に見切りを付けようとしていた所、偶然通り掛かった坂下様に叱られまして…。」
「叱られた?」
「ええ、それはもう凄い剣幕で"何でもっと周りを見ないんだ、世界は広い。全部見てからでも遅くないだろ?今、君と僕がこうして出会ったのも意味があるんだ。その意味だって知りたくないのかい?"と。」
ふうん。あの人、そんな事を言うんだ…。
「それ以外にも実に親身に当時、虫けらの様だったわたくしにお優しい言葉を掛けて下さりまして。」
「そうだったんですか。」
「それからと言うものの死に物狂いで働き、あらゆる資格という資格を取得し、何とか坂下様に御恩をお返しできればと願っておりますうちに、今のこのお仕事につく事が出来ました。おや、車が到着した様です。」
「えっ。」
見ると外にタクシーが一台停まっていた。
「少しお喋りが過ぎたようです。失礼致しました。」
そう言うと外まで一緒に出て来て、タクシーが動き出した後も深々と頭を下げているのが見えた。
ふうん。人って見かけじゃわからないね。
ーーー世界は広いかぁ。
急に疲れが出てきたのか、自宅に到着するまで瞼を閉じた。
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