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何がなんだかわかんないうちに、その人はガラスケースを周り、そしてクルリと私の後ろに回るとーーー
ひゃっ!!
えっ?
その瞬間、ふわぁってほのかにお砂糖のような優しい甘い香りが私の鼻先をくすぐった。
気づけばその人に後からぎゅっと抱きしめられていた。
な、なんで?
私を抱きしめたままその人は、続いてぞろぞろと奥から出てきた人達に向かってさらに続けた。
「だから、俺はこいつと付き合ってんだって。何度も言うけど、結婚は出来ないっ。」
「ちょ、ちょっとなんなんですか?いきりっーーー」
反論しようとしたら、さらにきつく抱きしめられてーーー。
いや、抱きしめられてと言うより首を締められてだよ。
く、く、くるじぃ…………。
反論どころか息もままならないんだけど…。
するとーーー
「ごめん、今だけ俺に合わせて……」
と、耳元で囁くと、また、私をキツく抱きしめた。
うひゃっ。
そ、そ、そんな耳元で囁かれたら擽ったいってば。
兎に角、言われた通り黙って様子を見る事にする。
て言うか、後ろから回された腕により完全に私の口塞がれてるし。
「なっ、分かったろ?こいつもこうして毎日通ってくるくらい俺の事、好きなんだよ。もちろん、俺もこいつが好きだ。それにこいつがいなきゃ、俺は和菓子もまともに作れねぇ。だから、お前とは結婚出来ねぇの。いい加減、諦めろ。」
「嘘よっ。信じられない!そんなの今適当に言ってる作り話なんでしょ。」
「悟、いい加減な事を言うんじゃない。父さんも母さんも、そんな話聞いたことないじゃないか。」
「良い歳してイチイチ、付き合ってる女の事、誰が親に話すかよ。」
「ねぇ、さっきからあなたずっと黙ってるけど本当なの?あなた、本当に悟さんの彼女なの?これといって可愛くもないし、取り柄も無さそうだし、私、納得いかないんだけど……。」
と目の前の黒髪美人が言い、どうやらその矛先は私へと向けられた。
いや、なに、この修羅場。
てゆーか、この状況、私、把握してないし……
どうしよ…何て言えば良いのやら。
「えっ……その……」
返事に困って尚も私を後ろから羽交い締めにしている人を振り返るとーーー
「っ…!」
その人の唇がゆっくりと私のそれに重なった……。
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