「抱きたい男」side HiBIKI 2

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カツカツと、ヒールの音が反響していた。

廊下を歩く、黒いヒールと細い足首がガラス越しに見える。

こんな夜中にいったい誰だ？

ぴたりと扉の前で足は立ち止まり、扉が開く。

驚いた様子でこちらへと視線が向く、

ぴしりとまとめられたアップの髪、冷たい微笑を湛える女がそこにいた。

カトウマユカ。

契約日のあとSSで、

何度か顔を合わせることはあったが、直接的な会話はあれ以来なかった。

彼女は、いつも着ているスーツのように無駄が一切ない、

感情を消し去った顔は、彼女の仕事着の一部であると言っていいだろう。

時折見かけるその姿を、しばらく眺めていたことがあったが、

彼女の顔が笑顔にほころぶ姿を見ることはできなかった。

あの日、俺を抱きしめて微笑んだのは、

幻じゃないかって思うほどに、彼女は笑わない。