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「……ズルイ」
そんなことを言われたら、怒れなくなる。
普段は毒舌ばかりで、こうやって逆さにでもならなきゃ素直に本音も言えないようなひねくれものだけど。
それでも、やっぱり彼女は私の大切な友達だった。
逆さまのまま、テトが言う。
「天使の掟がどんなものであっても、一度落ちてしまった恋は、もうどうにもならないよ。どんな結末を迎えようとも、この恋物語は君達のものなんだ。だから……」
掟のせいにして逃げちゃダメだよ。
テトは優しく、泣く子をあやすようにそう言った。
私は、首のマフラーに手を触れながら、目の前のスクリーンを見上げた。
彼は、ホームに立ってずっと待っている。
私を、待っている。
その背後にある電光掲示板が瞬いて、次の電車がまもなく到着することを知らせた。
彼が本来、行くべき場所に間に合うことができる、最後の電車だった。
「このままじゃ、彼、あの電車も乗り過ごすだろうね。でも、君はそれで良いのかい?」
「……ダメ」
逃げ出したまま、すべての恋を壊してしまうなんて、そんな結末を迎えちゃいけない。
「ミク……君はどうしたい?」
テトの言葉に、私は頷き答えた。
「行く」
「うん」
テトはニッコリと笑って、空中でくるりと体勢を変えた。
「決めたんだったら、とっとと行ってこ~い!」
ドゲシッと、元の体勢に戻ったテトに背中を蹴り飛ばされた。
「うにゃあああっ!?」
思いっきりつんのめって、スクリーンの中に突っ込まされる。
自分の黒い影がトンネルのように拡がって、私は次元の壁をくぐり抜けた。
暖房の効いた館内から、冬風に粉雪が舞い散る、冷たいホームへと。
「み、ミク……?」
突然、目の前に現れた私に、彼が、目を丸くしていた。
「か、カイト……さん……あの、その……」
来てみたはいいものの、正直、自分でも何を言えばいいのか全然考えていなくて、結局口から咄嗟に出た言葉は、
「お、お久しぶりです」
「あ、ああ、うん……久しぶり」
彼も戸惑ったように、間の抜けた返事を返してきた。
……なんか、雰囲気とか色々と台無しになった気がしないでもない。
いくら会いに行こうって思っていても、なんでも近道すりゃいいってもんじゃないんだなぁ。
そんなことを考えていたら、
「ミク……」
と、彼の方から声をかけてきた。
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