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「あのさ、羽、出しっ放しになってるんだけど」
「え? あ、そうでした!?」
慌てて背中の羽をしまい込む。
ホームには他に誰も居なさそうだけど、それでも、白く輝く大きな羽を拡げっぱなしにしているのは、さすがに目立つ光景だった。
念の為に、周囲を見渡していると、クスクスと笑う彼の声が聞こえた。
「わ、笑わないでください」
「あぁ、ごめん。でも、なんだかすごく……嬉しかったんだ」
「え……」
「初めて君と出逢ったときのことを思い出したよ。あのときも君は羽を拡げて、とても綺麗だった」
「………っ!?」
何も言えなくなってしまった私の前に、彼が歩み寄ってきて、この手を取った。
「ミク……」
寒空の下で、冷え切ってしまった彼の手はとても冷たくて、
でも、
「ずっと、君を待っていた」
彼の言葉が、とても暖かくて、私の胸を締め付けた。
この人と、繋がりたい。
ずっと、繋がり合っていたい。
それを、どれほど願っただろう。
でも……
好き。
この一言が、どうしても言えなかった。
この気持ちを、必死に押さえつけた。
ねぇ、お願い。
この手を……離してよ。
私は、彼の手を、静かに離した。
「ミク……?」
「カイトさん、マフラーがないと寒いでしょ」
ニコリと笑って、首のマフラーをほどいた。
ねぇ、テト、今もあそこから観てるんでしょ。
私、いま上手く笑えてるかな?
ほどいたマフラーを、彼の首にかけた。
「ミク」
彼が、真剣な眼差しで、私を見つめて、口を開いた。
「僕は、君がす――」
私はマフラーを引き寄せて、言いかけたその唇を、唇で塞いだ。
柔らかな感触、
伝わり合う温もりと温もり、
かすかに開いた唇から溢れ出る吐息とともに、私は、彼の気持ちを吸い込んだ。
初めてのキスは、涙の味がした。
ゆっくりと、唇を離す。
目の前に、呆然として焦点の合わない、彼が居た。
「あ……えっと……」
ぼんやりとして、何が起きたのか理解できていない彼に向かって、もう一度にっこりと笑顔を浮かべる。
「マフラー、忘れちゃダメですよ」
「マ…フラー……?」
立ち尽くした彼の首に、かけられたマフラー。
私は、初めてこのマフラーを買った時のように、彼の首に、この手で、マフラーを巻いた。
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