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地上からの光に照らされて闇を濃くした夜空から、ひらり、ひらり、と白い氷の結晶が音もなく落ちてくる。
彼女は舞い落ちてきた粉雪を、繋いでいない方の手で受け止めた。
小さなその欠片は少しだけふわふわと手の上で揺れていたけれど、すぐに彼女の体温をわずかばかり奪い取って、形を失い消えていった。
手の中の雪を見つめる彼女の長い髪に、まつ毛に、細やかな雪が降り注ぎ、その姿をうっすらと白く染めようとして、でも、それもかなわずに消えていく。
彼はそんな彼女を見ながら、その雪がまるで自分自身の心のようで、
彼女を心のままに染め上げてしまいたいけれど、そうできない、そうしてはいけない、その矛盾と哀しみのようで、
彼はそっと、彼女から目をそらした。
そんな彼の横顔を、彼女が見上げた。
彼の目が、少し前まで自分に向けられていることを、彼女は知っていた。
あと少しだけ早く顔を向けていれば、彼の視線を捉えることができたのだろうか。
その瞳を見つめることができたのだろうか。
でも、そうできたのに、そうしなかったのは彼女自身だった。
恋しくて、恋苦しくてたまらないのに、この恋に身をゆだねてはいけない。
今の繋がりあった手でさえ、近づきすぎてしまって、本当は振り払わなくちゃいけないのに……
でも、どうしようもなく傾き惹かれてしまったこの心が、二人を今の距離につなぎとめ続ける。
想い合う二人のあいだに赤い糸があるのなら、それをつなぐのは恋の天使の役目だろう。
だけど、
けれど、
だからこそ、
恋の天使は、恋に溺れてはいけない。
恋の天使は、決して恋をしてはいけない。
それが彼女たちに定められた、神様にだってどうにもできない、掟だった。
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