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「ホワイトクリスマスだなんて浮かれている奴らは、バカなんじゃなかろうかと思う」
暗い映画館の中、私の隣で、テトがスクリーンを見ながら辛辣なセリフを吐いた。
目の前の大きな銀幕の中では、イルミネーションに彩られた町並みの中、二人の男女が手をつなぎ、寄り添い、白い息をこぼしながら、切なげな瞳で降り注ぐ粉雪を見上げていた。
「だいたい、雪国の人間からしたら雪ではしゃぐなんてありえないし。ちらちら降ってくる雪で“まぁ綺麗”なんて、雪を舐めているのか? 僕の実家じゃ、雪は災害扱いなんだからな」
テトはそう言いながら、膝の上においた特大カップからポップコーンを掴み取って、頬張った。
もっしゃもっしゃと口いっぱいのポップコーンを、コーラをストローでずずぅ~っと喉に流し込む。
太るよ。
そう言ってやったが、テトは「へーき、へーき」と笑うだけだった。
「君と違って、僕は基礎代謝が高いんだ。だから、むしろこれくらい食べないと痩せてく一方なんだよ」
痩せてくってのは、そりゃアンタの胸の話か?
テトの胸に目をやり、そう言いかけて、やっぱり止めた。
言えばブーメランとなって自分に跳ね返ってくる。
悔しいがこう見えて彼女、私よりもサイズが上なのだ。
本当に僅差ではあるけれど。
ぶすっとした顔で横目でテトを睨んでいると、彼女にその視線を気づかれた。
テトが、私を見下しながらニヤニヤと薄笑いを浮かべた。
――君は実に馬鹿だな。
口には出さないが、そう言っているのがわかる。
テトは私から目を離し、またスクリーンに目を戻した。
「それにしても、恋愛映画の筋書きってのは、どれもこれも似たりよったりだね。男と女が出逢って、意識し合って、でもすれ違って。……ドラマチックにするために余計な要素でごてごてと飾り立ててるけど、要はそんなところじゃないか」
テトは知った素振りでそう言って、片手を手すりに頬杖をついて、もう片手でポップコーンのカップを抱え込みながらコーラを音を立ててすすった。
暗い映画館には私たちの他には誰もいなくて、テトは行儀悪く前の座席の背もたれに両足をかけながら、遠慮なしにしゃべり続けた。
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