初めてのキスは、涙の味がした。

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「こういうのは、悲劇、喜劇、古今東西問わず変わらないものだね。源氏物語然り、ロミオとジュリエット然り、竹取物語然り。違いと言ったら、身分違いだったり、敵味方に分かれてたり、住む世界が違ってたり……ん? ああ、これ全部、禁断の恋だった」 何がおかしいのか、テトはコーラのストローを加えたまま、クックッと笑った。 ほんと、何がおかしいのか。 私は隣に手を伸ばして、彼女の抱えている特大カップからポップコーンを掴み取って口に運んだ。 ココアパウダーがふんだんに振りかけられていて、コーンの香ばしさにココアの甘さと苦さが口いっぱいに広がった。 指についていたココアを舐めとりながら、スクリーンを観る。 そこに映る、雪を見上げる二人の男女。 その口から溢れる白い息は、言葉にならない切ないため息。 お互いの気持ちはとっくに両想いに傾いてしまっているのに、本人たちはそれを認めようとはしない。 でもそのくせ、つながり合ってしまった手と手、触れ合う肩と肩を、引き離せないでいる。 それは、好きになってはいけない相手を好きになってしまった、禁断の恋。 だけど別に身分違いの恋でも、敵味方に引き裂かれたわけでも、住む世界が月と地球ほど違うわけでもない。 ただ友人として付き合っていたはずの男女の友情が、いつの間にか引き返せないくらいの恋心に変わってしまっただけの話。 それなのに、どうして禁断の恋なのか。 それは、彼には本当は片思いしていた別の女性がいて、 彼女はその片思いを友人として応援していて、 でも、応援しているうちに彼女は彼に情が移ってしまって、 彼もまた、いつもそばにいて励ましてくれる彼女の存在が大きくなってしまった。 そんな、テトに言われるまでもなく巷に溢れているようなよくある、恋愛映画としても陳腐なあらすじだった。 ただちょっとだけドラマチックな要素があるとすれば、それは物語のヒロインである彼女が、恋の天使だったというぐらいだろう。 サエない、モテない、片思い男の切なる願いを叶えるためにやってきた天使が、図らずもその男と恋に落ちてしまった、そんな物語。
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