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2週目の金曜日。
俺は高校時代の部活の同窓会の飲み会に参加した。
ホントは父さんが危篤状態だから断ろうかとも思ったけど。
母さんとあの暗鬱とした病室でただ父の鼓動が止まるその瞬間を待っているだけなんて気が滅入る。
「よう亜樹!久しぶりだな」
店に入ろうとしたところで声を掛けられた。
振り向くと、そこには懐かしい学友の姿があった。昔は黒髪だったのに今は茶髪になった頭が時の流れを感じさせた。
「よぉ橘(たちばな)!高校卒業して以来だな!」
俺は嬉しくなって彼の肩をバシッとたたく。
「何だよお前、髪なんて明るくしちゃってさ。大学デビューってやつか?」
俺がからかうと、橘は照れたように髪の毛先を触った。
「まぁね。オレ私立行ったからノリの軽い奴らが多くてさ。やっぱ変か?」
「いいや、良く似合ってるよ」
「お前は痩せたんじゃね?そう言えば…お前今日来て大丈夫なのか?俺今回幹事だから出欠担当のやつから欠席になるかもって聞いてたんだけど……」
「あぁ…父親の調子がいよいよ悪くなってさ。でもいつも病室にいるのもアレだし、気分転換したくってね」
「そっか……相変わらず大変そうだな」
橘は受験のことを言っているんだろう。
こいつとは同じ大学を受験したからその時のことは一応話していた。
まぁ、こいつはそこを落ちて滑り止めの私立に進んだみたいだけど。
しんみりさせてしまった空気を払いたくて、俺は中に入ろうと彼を促した。でも彼は幹事なので、外で皆が集まるのを確認してから行くと言われ、俺は一人で店の中に入った。
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