第零義 僕の物語

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これを後ろの壁に叩き付け、瞼越しでも眼球を炙る莫大な光量のばら蒔く。 感覚器官の性能が常人の数倍から数十倍である事が逆に仇となり、厄介な英雄は一般兵以上に使い物にならなくなる。 レオンさん直伝の卑怯戦法。 卑怯故に、効果は絶大。 この混乱の最中更に視覚まで奪われてしまえば、僕達を補足するのは不可能になる。 そうなれば教会からの脱出も現実味を帯びる。 …………………とは言っても、騒ぎを聞き付けた外の兵士が直ぐに駆け付けて来るだろう。 その後どうするかまでは正直考えが及んでいないのだが、それは出た所勝負だ。 「シルビアちゃん、これで目を───────」 【閃光蛍】の閃光を遮断する特別製の黒布を渡したその瞬間だった。 パンッ!!!! と、風船が破裂したような渇いた音が教会中に響き渡った。 その音には、場を静める不思議な魔力でも込められていたのか。 あれだけ騒がしかった教会内が、水を打ったように静まり返った。 「お兄さんカックイー!! その女の子を助けるために一人で乗り込んで来るなんてさ。」 恐らく12、3歳程の少年だった。 年相応に幼く無邪気で、白髪の天然パーマが愛らしい子。 だが驚くべきは、教会内の騒ぎを納めたのがその少年という事実。 この子は一体何者だろうか。 底知れない何かを感じる。 「お兄さん名前は? 折角囚われのお姫様を助けに来たんだし、ここは高らかに名乗ろうよ。」 少年が騒ぎを納めたおかげで、注目は全て僕に集まっている。 にも関わらず、何故か誰も動く気配を見せない。 一般兵も、英雄も。 まるでこの少年一人で十分だと言わんばかりに、静観する。 「僕は────僕はサガ・ニーベルヘルン!!!! 《疾風》ことレオンハルト・スターダスト唯一の弟子だ!!!!」 【閃光蛍】を使うタイミングを完全に逃してしまった。 今使ったとしても効果は半減。 教会から脱出するのは難しいだろう。 「へー!! 凄い凄い、あの《疾風》の弟子なんだ!!」 このような形で自分の名前を利用されるのをレオンさんは嫌うだろう。 だけど、今は利用出来るものならば何であっても利用しなければならない。 ここからシルビアちゃんを連れて無事に帰るためにも。 「で、その《疾風》のお弟子さんはどうやってここからお姫様を救い出すのかな? ここには強い人が沢山いるよ?」
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