第零義 僕の物語

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「さて、ね………………………どうしようかな。」 困った。 これは参った。 一旦リセットされて落ち着きを取り戻されたこの状況で、どんな手を使えばここを切り抜けられるのか。 「──────────────」 やはり目の前の少年に任せ切りで誰も動こうとはしない。 今場を支配しているこの少年を組伏せて人質に取る作戦も一瞬浮かんだが、それは無理だろう。 僕のような何をするか分からない危険人物と対面しても、兵士や英雄は平気な顔。 恐らく、この少年は英雄なのだ。 それも、英雄を名前も与えられないモブキャラの如く適当に倒す《疾風》の弟子すら寄せ付けない程強力な。 僕より幼くても、ここにいる他の全ての英雄よりも強いのかもしれない。 「黙ってないで何かアクションを起こしなよ。 君が動かないと何も始まらないよ?」 狙っているのか、それとも天然なのか。 少年は僕を急かし、結論を急がせ焦らせる。 脳味噌を雑巾絞りにしても打開策なんて出そうにも無いのに、これでは纏まる考えも纏まらない。 集まる視線。 高まる警戒心。 早く早くと促し急かし思考の鈍化を招く少年。 心臓の動悸が激しくなる。 頭の中で進展を見せない思考が堂々巡りし、この地獄へ飛び降りた時の勢いが完全に死んで足が竦む。 すると何故か一本に定まっていた視界が解れて周りが見渡せるようになり、改めて自分の無謀さを自覚する。 心臓に続いて呼吸も無意識の内に早くなり、深呼吸に近い深い息をしなければ酸欠で倒れそうになる。 マズい、やられた。 勢いに乗っている時は余計な事をアレコレ考えずに行動出来たけど、止まってしまうと必要の無い事まで考えてしまう。 今はこの状況を打破する事だけを考えるべきなのに、 この少年の意図を深読みしたり れから先起こる最悪のシチュエーション等を想像してしまう。 駄目だ。 駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ。 一人だ。 僕は一人なんだ。 嫌という程実感してしまう。 一人とは、孤独とはこんなにも心細いものなのだと。 最早新しい事なんて考えられない。 残っているのは、最悪の場合の最低な手段として真っ先に切り捨てたアレしかない。 嫌だけど、今は。 「───────ごめん、シルビアちゃん。」 一言、シルビアちゃんに謝る。 今からやる事に。
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