第零義 僕の物語

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この場を切り抜けるための方便だとしても、シルビアちゃんを犠牲にするなんて言うのは。 嫌われてしまうかもしれない。 例え逃げ切れたとしても、薄情者と罵られ二度と口を聞いてもらえないかもしれない。 でも、それで良い。 昏き者を使役する権利を与えられた事以外、シルビアちゃんは普通の女の子なのだ。 本来ならば帝国とか同盟諸国連合とか、そんな大人達の勢力争いに利用されて良い娘では無いのだ。 僕が嫌われるだけで済むのならば、安いものだ。 「後ろの人達にも伝えてくれ。 妙な動きを見せれば即引き金を引く、それが嫌ならば離れて見ていろと。」 完全に読みが外れたと、悔しがっているのだろうか。 白髪の少年は俯きフルフルと体を震わせている。 恐らく格の高い英雄であるこの子は、挫折や失敗というものを知らないのだ。 だから、納得できない。 単純な力では解決出来ない展開に。 「ぁ───────ァ──────」 そう思っていた。 少年の、恍惚とした顔を見るまでは。 「最高──────────ッ────」 「────────────ッ!!!?」 ドロリと、底無し沼に足を突っ込んだような生暖かい生理的嫌悪感が全身を包む。 肌が逆立ち、ヌメリとした蛞蝓のようなものが口の中へ入り込んだような気持ち悪さが押し寄せる。 何だ、何なんだこの子は。 レオンさんやギブソンさん、強力な魔獣等の底冷えするような恐ろしさとは根本的に異なる。 理解が出来ない、得体が知れない。 僕の知らない、全く新しいタイプの恐怖だった。 「最高だ、最高だよお兄さん!!!! 殺すんだね、逃げられないと分かったらお兄さんは殺すんだね!? その子を、助けに来たお姫様を、ほんの一時でも希望を持たせた女の子を!! この神に祝福を受ける教会で!! 女の子………いや、女性として一番美しい装束で!! そうやって腕の中に抱き締めながら、純白のドレスを紅い血で染めていくんだ!! ステンドグラスから差し込む淡い光。 ウェディングドレスを血で染めて果てる少女。 君は死に行く彼女を抱き締めながら、荘厳な音楽の中佇む。 あぁ、芸術だ。 今まで僕が作って来たどのアートも駄作に思える!! こんなにも、こんなにも美しくメッセージ性のある作品なんて無いよ!!!!」 「な、何を………………………………」
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