第零義 僕の物語

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何を言っているんだこの子は。 作品? 芸術? アート? シルビアちゃんを撃ち殺した僕が、メッセージ性のある絵になるだって? それは、一体何の冗談だ。 「いけませんユーグリウッド様、帝国にとってその少女の利用価値は───────」 頭の重要なネジが外れて暴走するユーグリウッドと呼ばれた少年を、 式に参席していた帝国の高官が駆け寄り諌めようとした。 が、その手が肩を掴もうとした瞬間。 「あのさ、自分が誰に意見してるか分かってるの? 君の娘の子宮を引き摺り出して口の中に突っ込むよ?」 殺人鬼の目。 あと僅かにでも刺激を受ければ、たちどころに血煙舞う惨劇が起きる事が確信できる殺意に塗られた瞳。 こんな幼い少年が映すものとは、とても思えない。 「も、申し訳ございません…………………………」 高官はその一睨みで完全に血の気を引かせ、逃げ帰るように人混みの中に紛れ込んだ。 フンッと忌々しげに鼻を鳴らした少年は、警戒心しか抱かせない無邪気で邪悪な笑顔を僕達に向けた。 「さあお兄さん、彼女を一番美しいまま死なせてあげるんだ。 僕はそれをこの両目に焼き付け、描こう。 絵描きになんて描かせない、僕自身が筆を取って描くんだ。 そうすれば僕はその高揚をいつでも思い出せるはずだ。 僕の作品を敬遠する盆俗も理解し、涙を流すはずだ。 その絵に込められたメッセージに。」 「な、な───────────」 何でそうなるんだ。 何で外道に身を落として確実さを取ったはずのこの選択が裏目に出るんだ。 僕は何処で間違った? 僕は……………どうすれば良い? 「全ての出入り口を封鎖しろ!!!! 外の兵士にも伝え、この教会から鼠一匹出られない包囲網を築かせろ!!!! 全ての英雄は僕の近くへ!!!!」 少年の命令は速やかに行われ、外は騒がしくなり正面の扉は勿論梯子を上らないと行けない窓も全て兵士に塞がれた。 そして教会内にいた十数人の英雄が少年の左右に並び、退路と進路を完全に絶った。 その間僕は動けず、ただ黙って見ているしかなかった。 「これで絶対に逃げられない。 絶対に逃がさない。 お兄さんに残された選択肢は、ただ一つ。 その女の子を殺して万の犠牲者が出るのを防ぐ事だけだよ。 でも、一つだけお願い。 出来るなら、女の子の顔は傷付けないで欲しい。 綺麗な死に顔を描きたいんだ。」
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