第零義 僕の物語

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半開きになった扉。 仲良く床で惰眠を貪る、扉を閉じていたはずの兵士達。 そして、口に咥えたタバコから煙を昇らせながら人の群を割り歩んで来るレオンさん。 僕サガ・ニーベルヘルンの師匠。 「カッコ良い登場じゃないのよ、師匠さん。 だけど思い上がりは身を滅ぼすじゃんよ《疾風》 アンタが怖いのは裏でコソコソ動いてどんな卑怯な手を使って来るか分からないからじゃん? こんな風に正面から来てくれたならさ、全然─────────」 「これ、捨てといてくれ。」 ピンッ、と。 火の付いたタバコの吸い殻を、レオンさんは真正面から来たNo.持ちの英雄に指で弾いて投げた。 回転しながら飛ぶ吸い殻は途中でポッと火を強くし、英雄の気をレオンさんからそちらへ逸らした。 その瞬間だった。 英雄の注意が吸い寄せられたほんの一瞬の隙を狙い、 レオンさんは袖から振って出した金属製のロッドを一切の手加減容赦無しに脳天へ振り下ろした。 一連の動作は流水のように滑らかで極自然であり、 急激な変化を排していたので英雄も察知が遅れたのだろう。 普通の人間の腕力とは言え、意識の外側で無防備な脳天を重たい金属のロッドで殴られたのだ。 英雄の頭がガクンと激しく下に揺れ、また一瞬動きが止まる。 それで終わらせる程、レオンさんは優しい人ではない。 武術の御手本のような淀みの無い流れのままに英雄の襟元を左手で掴み、 踵で親指を踏み付けて後ろに流れないようその場に固定し腰の捻りも加えてハンマーのように固めた肘を柔らかい喉に打ち込んだ。 「───────────ッ────」 英雄の口から苦しげな空気の音が聞こえ、連撃を叩き込んだレオンさんは腹を押し出すように蹴り飛ばした。 「……………………クソッ、噂に違わぬ卑怯ぶりじゃんよ。」 蹴られた英雄は長椅子の端に後頭部をぶつけて悶絶するも、流石はNo.持ちと言うべきか。 あの必殺拳を受けても尚、ほとんどダメージが見られない。 悪態を吐きながら直ぐに立ち上がろうとして。 転んだ。 「は?」 その疑問は極自然なものだった。 まさかピンポイントでバナナの皮が仕掛けられていて、それを踏んで滑ったなんて古典的なギャグが発動する訳も無い。 転んだ要因を探すため下に視線を向けて、それで納得した。 折れていたのだ。 英雄の足が。
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