第零義 僕の物語

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くの字に。 膝の所で、本来曲がる方向とは反対に。 膝の可動部が、180度を超えたのだ。 「オレの──────────ッ!!!?」 「正面から来てくれたなら、何だって?」 嫌味っぽさは無く、素朴に疑問に思っているように。 レオンさんは英雄がその先続けようとしていた言葉を尋ねるも、足が反対側に折れた激痛で耳に入っていない様子。 無視されたレオンさんは早々に諦め、折れた足を邪魔だとばかりに蹴って進む。 「……………………待て、これ以上先には進ませんぞ。」 十数人の英雄がレオンさんの進撃を止めるために進路を塞ぐも、不安が微塵も無い。 小国なら一日で滅ぼせる戦力のはずなのに、やられるために出て来た噛ませ役としか思えない。 「火。」 「……………………………何?」 「だから火だよ、タバコ持ってるんだからそれくらい察せよ。 それとも何だ、この式場は客にそんなサービスも出来ないのか?」 「あ、あぁ。」 凄まじい存在感。 レオンさんの迫力に飲まれた英雄の一人が、指先に火を灯し差し出した。 タバコの火を貰ったレオンさんは一息吸い込んでから後ろを指差し、 「あれ、手当てしてやれ。 棒か何か括り付けて固定してやれば直ぐに治るだろ。」 何時の間に上司に成り代わったのか、英雄は反抗せず従順に言われた通り同僚に肩を貸して教会を出て行った。 そして、レオンさんは進む。 大胆不敵に、まるで凱旋歌と共に迎えられる王のように。 その歩みを阻む者など存在しないと。 「と、止まれ!! それ以上は進ませないと言ったのが聞こえなかったか!!?」 No.持ちの英雄が勇ましく前に出るも、その声は震えていた。 退くべきか退くまいと、その足は葛藤していた。 目の前のレオンさんとではなく、臆病な自分と闘っているようだった。 「何だ、物々しいな。 オレはそこにいる弟子を迎えに来ただけなんだ、そういう物騒な物は納めてくれ。」 抜剣し、戦闘態勢を取る英雄達。 しかしその姿は雄々しい獅子ではなく、絶対的捕食者にせめてもの抵抗として精一杯自分を大きく見せている小動物のようだ。 「止めとけ止めとけ、命に換えてでもなんて意地を通すのは女のを守る時のために取っておけ。 今は意地の張り所じゃねぇのよ。」 レオンさんは武器を構えたまま石像のように固まった英雄に近付き、その肩に手を乗せて退かした。
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