第零義 僕の物語

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肩を押された英雄は心なしか安堵したように素直に従い横へ逸れ、道を開ける。 激昂し喚き散らし最後の障害になるかと思われたユーグリウッドも拍子抜けする程アッサリと引き下がり、 道を譲られたレオンさんは優雅に余裕を以て僕達の所に辿り着いた。 「良くやったサガ、お前が時間を稼いでくれたおかげで何とか間に合った。」 「やっぱり美味しい所は全部持っていかれちゃいましたか。 でも、助かりました。 レオンさんが来てくれなかったら、多分僕はあのまま…………………………」 シルビアちゃんを殺していた。 狂人ユーグリウッドが望むように、助けに来た騎士自らが手を下しお姫様を血に染めて。 僕の力不足故に。 「気にするな、オレの存在も含めてお前の実力だ。 だからほら、最後はお前が締めろ。」 「これは………………………………?」 レオンさんが差し出した紙には、意味を成さない文字の羅列が記されていた。 暗号化でもされているのだろうか? 「昏き者を使役するための呪文だ。 シルビアと結婚してそれを唱えれば、使役権がお前に譲渡される。」 「呪文って…………一体何処でこんなものを調べたんですか? シルビアちゃんのお父さんと、それを殺した犯人しか知らないはずなのに。」 どうやらそれを語るには不都合な事が含まれているらしい。 色々とな、と煙で口を隠しはぐらかされた。 気になるけれど、これ以上追求しても口を濁されるだけだろう。 なのでそれは諦め、答えが貰える質問をした。 「結婚って、どうすれば良いんですか? 御役所に婚姻届を持って行くんですか?」 「アホ、そんな面倒な事してられっかよ。 オレが神父役やってやるから、そこに並べ。 折角お誂え向きの舞台が用意されてるんだ、これを利用しない手は無いだろ。」 形式的とは言えレオンさんが神父とは、一体何の冗談だ。 禁欲とは正反対の人種である上に100年間懺悔しても足りないような咎人に祝福されても、 死神か悪魔に取り憑かれる気しかしない。 「えーサガ・ニーベルヘルン、 あなたはこの女性を健康な時も病の時も富める時も貧しい時も良い時も悪い時も愛し合い敬いなぐさめ助けて変わることなく愛することを誓いますか?」 これは驚いた。 まさかレオンさんが以下略を使わず全文言い切るとは。 「はい、誓います。」
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