第零義 僕の物語

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レオンさんは思い出すように上を見上げ、 「………………昨日、酒場で連れも無しに寂しく一人で飲んでたのを見た覚えがある。 異様な雰囲気を纏った奴でな、あの騒がしい酒場でそこだけ死んだような空気だった。」 「成る程、流石は神の王を討った救世の徒。 常人とは一線を画する雲上の御仁のようだ。 ………………うむ、ありがとう!! 助かった、これで私達は救われる!!」 レオンハルト・スターダストを頼らなければならない用事とは相当深刻なもののようで、 エルフのお姉さんは安堵からか涙さえ見せてレオンさんの手を握りブンブンと振る。 きっと自分達ではどんなに足掻いてもどうにもならない悲劇があって、悩みに悩んでレオンさんに助けを求めたのだろう。 いくら面倒事に巻き込まれたく無いとは言え、必死の想いで頼って来た人を騙すのには心が痛む。 なので、そろそろこの三流コントを終わらせようとした。 「あの─────────」 ギロリと。 涙を拭うエルフのお姉さんの目を盗み、今にも牙を剥いて襲いかかって来そうな血走った目をレオンさんは僕に向けた。 言わずとも分かる。 喋ったら殺す、と。 あの目は本気だ。 弟子とか関係無くマジで殺しに来る。 初めて出会った時のように。 真実を告げると同時に、僕はトマトジュースに似た鉄分タップリの液体をブチ撒けて死ぬだろう。 心が痛む。 良心がキリキリと締め付けられる。 言ってしまいたい。 教えてあげたい。 レオンさんに救いの手を差し伸べて欲しい。 しかし、膀胱がディストラクションで胯間が黄金化しそうな恐怖には勝てなかった。 所詮人間は自分の命が一番大事なのだ。 「ん、何だ?」 「見付かると良いですね、その人…………………」 多分これで良いのだ。 きっと他の誰かが解決してくれる。 悲劇が起こってしまったとしても、僕には関係無い。 僕は何も知らない。 「ああ、必ず見付けてみせる。 例え代償として命を請求されたとしても、私はその御仁の助けを得ねばならないのだ。」 罪悪感が………………………… 「アンタが無事その人に会える事を願っている。」 「大丈夫、必ず会えるはずです。」 もう会ってますからなんて言えない。 そんな事口走った次の瞬間、背中に押し付けられた固い物で僕は一世一代の面白ビックリ人間ショーをやる羽目になってしまうのだから。
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