第零義 僕の物語

111/118
前へ
/786ページ
次へ
特に唇に塗られたルージュが、大人へ背伸びしているようで愛らしい。 その唇に僕の唇を重ねるのには、かなり抵抗がある。 「シルビアちゃん、キスって何処にすれば良いのかな? 確か結婚式の誓いのキスって、恥ずかしかったらおでこでも良いとか聞いたんだけど……………………」 シルビアちゃんも、好きでも無い男にキスをされるのな嫌なはずだ。 ましてや、この結婚式は昏き者の使役権を譲渡するためだけの儀式なのだから。 「ほら、ブチュッと行っとけブチュッと。 こういう肝心な時に野獣になれない男は将来売れ残るぞ?」 「レオンさんにだけは言われたくありませんね!! 貴方が何度据え膳を食わなかったのか、僕はキスティさんに聞かされてますから!!! この意気地無し!!!!」 そうだ、レオンさんに僕をとやかく言う資格は無いのだ。 何度も童貞を捨ててゴールインするチャンスがあったクセに、その度に逃げて来たヘタレ野郎には。 「サガさん?」 「大丈夫、大丈夫だから。 僕はあの人とは違うから! 唇は流石にアレだから、ほっぺで妥協させて頂きます!!」 レオンさんのせいで(おかげで?)テンションがおかしくなってしまった。 しかし、これならば行ける。 恥ずかしがりやな僕の制止を振り切って、勢いに身を任せる事が出来る。 いざ、出陣の時よ!!!! 「誓いのキスをほっぺになって、そんなの野暮ですよ。」 「いや、でも───────────」 「諦めの悪い口は、こうやって塞いじゃうのが一番です。」 首に腕を回されて頭を下に抱き寄せられ、爪先立ちになったシルビアちゃんの唇が。 僕の唇に触れた。 触れて、押し付けられた。 「な───────────」 「これで私達、夫婦ですね?」 「ひゅーひゅー、熱いねーお二人さん。」 レオンさんの煽りすら最早気にならない。 キスされたという事で頭が一杯だった。 「シ、シルビアちゃん?」 「良いじゃないですか、女の子は雰囲気に弱い生き物なのですから。」 だとしても、自分の唇を安売りしてしまうのはまた話が別だと思うのだけど。 でもこの満足そうな笑顔を見ていると、これで良かったのだと安心している自分がいる。 「あー、本物の恋人みたく見詰め合っている所悪いんだがなお二人さん。 そろそろこの件に幕を下ろしちゃくれんかね?」
/786ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30237人が本棚に入れています
本棚に追加