第零義 僕の物語

113/118
前へ
/786ページ
次へ
無気力に命令されたにも関わらず、誰もが心から祝福するような万雷の拍手が僕達を送り出す。 それっぽい雰囲気の曲とアバウト過ぎる注文でありながら、 演奏団は正に今僕が欲している勝鬨のような激しく心震える曲を奏で始める。 帝国から昏き者と言う便利な生物兵器を実質的に取り上げ被害を与えた人間の命令を、 どうして反抗もせずまるでその命令を自分が欲していたかのように従うのか。 それを一言で表せば、恐らくカリスマという結末に行き着く。 最早呪いの類いの。 「行こう、シルビアちゃん。」 エンディング気分にいつまでも浸るものではない。 物語をエピローグへと進めるため、シルビアちゃんの手を取り外へと向かう。 「……………………化け物め。」 この祝福モードの中、ユーグリウッドだけが納得のいかないと言った顔でレオンさんに的確な評価を下した。 普段のレオンさんならムキになって反論する所だが、今日は心に余裕があるようだ。 子供の戯れ言と、笑って聞き流す。 「お前も大概だよ、次代皇帝様。」 「……………………アンタに散歩がてら帝国を滅ぼされなきゃね。」 「安心しろ、お前の遊び場を荒らすつもりはねぇよ。」 会話はそれだけだった。 横を通り過ぎるまでの僅かな時間の出来事だったので当然と言えばそれまでだが、 怪物同士の会話は非常に簡素で短いものだった。 「失礼………しました?」 「私達幸せになりまーす。」 門番に扉を開かせ、出口に待たせていた白と金のロイヤルな感じの馬車に乗り込む。 馬車には専属の御者が乗っていたが、僕達2人を送り届ける役は自分だと下ろしレオンさんが代わりに手綱を握った。 「さて新婚の御二人さん、今日はどちらまで?」 今から行くとしたら、リラックス出来る露天の温泉が良いかな。 夕日を受けて橙色に煌めく海が見える海岸沿いの道。 追手の姿は無いし、もし追って来たとしても無駄に屍を積み上げるだけだ。 「な、何ですかあれ? 島…………じゃないですよね、波に揺られてる感じですし。」 小山か島にも見える巨大な何か。 波の動きに合わせて上下するそれは、よく見ると魚のような鱗に覆われていた。 「昏き者のオリジナル………………昏き王とでも呼ぶか。 その死体だよ。 契約者による命令がこいつにも適用されるのか定かじゃなかったから、潜ってぶっ殺して来た。」
/786ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30237人が本棚に入れています
本棚に追加