第零義 僕の物語

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「一々やる事が壮大過ぎるんだよなぁ、この人は。」 数百m級の化け物を潜って殺し、それを日常の出来事のようにサラッと会話に混ぜて来る辺りレオンさんの化け物っぷりが現れている。 普通の人間とは一体何なのか。 とても難しい命題に頭を悩ませていると、仕事モードの平淡な声でレオンさんがシルビアちゃんに話し掛けた。 「シルビア、今後のお前の処遇だがこっちの方で勝手に決めさせてもらった。 お前の身柄は同盟諸国連合に引き渡す。 昏き者が滅んでお前の利用価値は無くなったが、 オレ達への報復に使われる可能性も否定できないから一応な。 そしてお前には同盟諸国連合要人の子女を集めた全寮制の学園に通ってもらう。 これ、お前の生徒手帳とその他諸々な。」 レオンさんが後ろ手に渡した封筒を受け取り中を開けると、 いつの間に撮ったのか顔写真付きの生徒手帳と多数の書類が入っていた。 盗撮された顔写真付きの生徒手帳をシルビアちゃんは嬉しそうに眺め、 目尻に浮かんだ涙を拭いながら満面の笑顔で御礼の言葉を述べた。 「本当に……本当にありがとうございます。 私が普通の女の子みたいに学校に通えるなんて、思ってもみませんでした…………………」 昏き者を使役するための道具としてずっと監禁されていたシルビアちゃんにとって、 学校に対する憧れは相当強いものだったのだろう。 僕に殺されそうになった時でさえ悲しげに微笑み現実を受け入れる程我慢強く気丈であったシルビアちゃんが、 ボロボロと大粒の涙を溢しそれを止められないようだった。 良かったねと、在庫処分の大セールよりも安っぽい言葉を掛ける気にはなれない。 そっと震える肩を抱き寄せ、感情が収まるのを待った。 「気にするな。 お前は大人の勝手な都合のせいで普通の生活を送れなかったんだ。 なら、お前を普通の世界に戻してやるのも大人の義務だ。」 「……こんなにしてもらってるのに、私、何もお返しをするものが………………」 シルビアちゃんは、やはり良い娘だ。 多くのものを奪われた身でありながら、一方的に与えられる事に罪悪感を持つとは。 「言っただろ、義務だって。 見返りなんて求めてねぇよ。 それでもお前の気が済まないのなら…………大人になって、目の前に救える子供がいたら救ってやれ。 誰かを救って、そいつがまた他の誰かを救って………そんな連鎖の始まりになれたなら、それは幸せな事だ。」
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