第零義 僕の物語

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「ではな、今度こそさよならだ。 感謝する、君達を助けて良かったよ!」 恋の花を見付けた乙女のように、エルフのお姉さんは軽やかな足取りでレオンさんが教えた酒場へと向かって行った。 ご免なさい、本当に許して下さい。 貴女が救いたいと願ったものは救われないけど、代わりに僕の命は助かりました。 この世に犠牲は付き物なんです。 「良かったなサガ、手足と頭が逆にくっ付いた奇妙な人間アートにならなくて。 人間もな、特殊な樹脂に浸して固めてから切断すれば数百年は持つ置物になるらしいぞ?」 「ハハ………………冗談、ですよね?」 「それがな、普通の芸術には飽きた変態貴族とかに結構高く売れるんだ。 勿論正規のルートでは売れないが。」 口は緩やかなカーブを描いているものの、目は笑ってない。 多分冗談では無いのだ。 もしあそこで口を滑らせていたら、僕は多分数百年後まで醜態を晒す羽目になっていただろう。 ……………良かった。 選択肢を間違えないで本当に良かった。 「おら、帰るぞ。」 後味悪いなぁ。 「さてと、これで頼まれてた物はこれで全部だね。」 エルフのお姉さんを見送った後僕達は宿に帰ったのだが、 緊張が緩んだのか部屋に入るなり僕が助けた女の子は糸が切れたように眠ってしまった。 事情を聞こうにも中々目を覚まさないので、今夜の夕食の食材を買い出しに行き一通り買い揃えた丁度その時。 無意識の内にもやはり気に掛かっていたためか、僕は酒場の前に来ていた。 エルフのお姉さんは無事レオンハルト・スターダストに会えたのだろうか。 女の子に続いて連続でやって来た面倒事を回避するために、 レオンさんが口から出任せに言った架空のレオンハルト・スターダストに。 …………………なんて、有り得ないと分かっているのに人事のように言う僕は結構酷い奴なのだろう。 「ん、あれは………………………」 タイミング良く………いや、悪く酒場の中には先程のエルフのお姉さんがいた。 それも更に悪い事には、レオンさんが口から出任せに言った架空のレオンハルト・スターダストを思わせる人物が酒場の端の席にいたのだ。 酒場の入り口からでは少し遠くて分かり難いけど、レオンさんと同程度の背丈に体格。 レオンさんの物と違いが分からない黒いコート。
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